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第三十五話 死中に活

 嘉納のドロー宣言のあと少しの間があった。嘉納が考えている。強いカードが引いたが、使うかどうか迷っている。内容はわからないが、サーバントの瓦からすれば使わないでほしい。


 ペケペケ・レジェンドのカードに最強カードはおそらくない。効果の高いカードほど強力な代償を伴う。戦わされる側からすれば溜まったものではない。


「止めてくれ」と頼みたいが言葉は出ない。すごく残酷な状態だ。


 瓦の心の声を無視して嘉納が宣言する。

「モンスターのラッパー・ゴブリンを召喚」


 ラッパー・ゴブリンは知っている。自分を犠牲にして対象を変更する効果を持つ。ラッパー・ゴブリンをいつ嘉納が引いたかわからない。だが、前のラウンドで出せたなら、出してほしかった。


 瓦の右横にラッパーの恰好をしたゴブリンが出現する。なぜか、ラッパー・ゴブリンは瓦を憐れんでいた。嘉納のビシッと宣言する。


「古代魔法カード・スーパーノヴァを発動。このターン終了までに、破棄されたカード枚数に応じて、サーバントと全てのモンスターにダメージを与える。このカードは打ち消されない。発動タイミングはターン終了時だ」


 嘉納の読み上げた内容に「ハァ?」となる。嘉納は自爆特攻に出た。対象にプレーヤーは含まれていない。嘉納とナムには痛くも痒くもないから使えるカードだ。


「勝てばいいというものではないだろう。俺は血の通った人間だ!」と説教したいが、声は出ない。嘉納の宣言は続いた。


「俺は残りの手札を全て破棄する」


 瓦は耐久力を上げている。嘉納の手札破棄枚数ならスーパー・ノヴァの威力にも瓦が耐えられるとの計算だ。だが、嘉納の作戦の危険性は素人の瓦でも理解できた。


 効果はターン終了時までに破棄されたカードの枚数で決まる。ナムがカードを破棄すれば、威力は上がる。枚数が瓦の耐久値ギリギリなら瓦は死ぬ。


 忍者の耐久力は瓦より低い。現状でスーパー・ノヴァに忍者は耐えられない。また、宣言されたスーパー・ノヴァを止められない。


 忍者へのダメージ軽減カードがナムにはないとする。ナムは自分の手番にカードを破棄して相打ちにするのではないか?


 この謎ゲームでサーバントが死んだ時の扱いは不明。今までの流れからして本当に死ぬ予感がした。


 嘉納の番が終わり、ナムがドローを宣言する。ナムが親指の爪を噛んでいる。表情は苦しい。負け確定なら諦めが付く。だが、カード破棄を起こせるカードがきたから悩んでいる。


 引き分けで「いい勝負でした」で済むのならナムは悩まない。勝敗の雲行きが、怪しくなってきた。ゲーム終了時に何が起きるかも怪しくなってきた。


 ナムが目を見開いて、宣言した。

「魔法カード・攻撃力増加を使用。使用プレーヤーがカードを破棄した枚数に応じて、対象の攻撃力を上げる」


 ナムは負けを認めなかった。ナムはカードを一枚だけ残して全部破棄した。強化対象は忍者。ここで、ラッパー・ゴブリンの効果で強化対象を瓦に変更できる。だが、嘉納はラッパー・ゴブリンの能力を使用しない。


 理由はナムが残した一枚のカードだ。動けるようになると、忍者は箒を捨て刀でラッパー・ゴブリンを斬り消滅させた。


 わずかにできた猶予で瓦は脱力する。

「風の構え・柳葉」


 忍者が瓦を何度も斬りつけた。瓦の体が舞った。瓦の体は斬られていない。瓦の耐久力が忍者の攻撃力を上回っているだけではない。柳葉の効果のおかげだ。


 刃物は引かねば斬れない。刃が体に触れてから、引くまでの間に極短い時間がある。刹那ともいえる時間で瓦は刃から体を離脱させていた。


 斬れないと忍者は連撃を止めた。忍者はゆっくり刀を上段に構える。忍者の顔から闘志は消えていない。忍者にはまだ奥の手がある。こうなると、戦闘経験の浅い瓦には勝敗が見えない。


 忍者の動きが止まったのは幸いだった。カミラに質問した。

「サーバントが死んだら、どうなるんです?」


「死にますよ」と答えにならない答えがカミラきた。だが、カミラが言いたいことはよくわかった。これはカード・ゲームのルールを使っている殺し合いだ。


「もう一つ質問です。サーバント側からの降伏ってできますか?」


 謎のゲームの殺し合いで、死にたくはない。勝利で得られるのは金数十グラム。死ねば命を失うのなら馬鹿らしい。


 ケロッとした顔でカミラは説明してくれた。

「アルティメット・レギュレーションではサーバントからの申告は認められません。降伏宣言はプレーヤーのみです」


 わからないことだらけの謎ゲームだが、理解した。中身がよくわからない金融商品販売員と死に狂いゲーマーの相手はしてはいけない。学校では教えてくれなかった大事な話だ。


 瓦を同族だと勘違いしているのか、嘉納に動揺はない。

「俺は降伏しない」


「お前がしたくなくても、俺は降伏したい」


 瓦の言葉に忍者が口を開いた。

「任務遂行においての死は無駄ではない」


 今後、嘉納と忍者とのお付き合いはしない、と瓦は心の中で誓った。死亡の刻が迫る。だが、狂人たちの群れで瓦以外にわずかに理性を残してる人間がいた。ナムは迷っているかに見えた。


 忍者はナムに背を向けているのでナムの顔は見えていない。生き筋が見えた。ナムに降伏宣言をしてもらえば。瓦は助かる。長い説得の時間はない。短い言葉でナムの心を動かせねば死ぬ。

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