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第二十三話 コンボ完成

 嘉納がハキハキした口調で述べる。

「カードを場に二枚伏せる。追加でモンスターの聖なる黒羊と悪魔の白羊を召喚する」


 カード二枚が光って、伏せ札になった。次に二枚のカードが光って消滅する。代わりにリングの上に白い羊と黒い羊が現れる。


 嘉納が黒羊に命令する。

「聖なる黒羊の能力、ゴッドブレスを白羊に対して発動。聖なる黒羊の効果により白羊から発生する攻撃は必ず命中する」


 黒い羊が消えて白い羊が黒く輝いた。嘉納は白い羊に命令する。

「悪魔の白羊の能力、自爆特攻を黒い球体に向けて発動。自爆特攻により発生したダメージは軽減できない」


 白羊がミサイルに変わる。白羊が空に向かって撃ち上がろうとする。


 瓦は不安だった。白い羊の重さは百㎏に満たない。とてもではないが、黒い球体を破壊できるとは思えない。大きさが違い過ぎる。


 嘉納の目を見るが、勝負を捨てた男の目ではなかった。瓦は希望を持った。

 嘉納の宣言は続く。

「まだだ! 魔法カード、月の女神の加護を悪魔の白羊に発動。悪魔の白羊はこれ以降、ターン・エンドまで他の効果の対象に指定されない」


 場に伏せてあったカードが光って消えた。ミサイル化した羊の角が雄々しい物に変わった。

 嘉納のやろうとしている作戦は読めた。攻撃を必中にしてから攻撃。同時に魔法カードで妨害を防ぐ。


 見ているしかできない瓦だがまだ心配だった。

「ここまではいい。問題は自爆特攻により発生するダメージだ。ちょっとや、そっとの威力では黒い球体は破壊できない」


 ミサイル化した白羊が空に飛んだ。ミサイル化した白羊は金網を破って上昇する。ミサイル化した白羊は黒い球体に命中して爆発した。


 衝撃波による強風が吹き荒れる。風は収まったが、予想通り黒い球体は破壊されていない。だが、嘉納が場に伏せたカードはあと一枚残っている。


 空に残った黒い球体を嘉納が睨み付ける。

「魔法カード、死神の一撃を発動。このターンにダメージを受けた敵一体を破壊する。破壊された対象は再生および蘇生ができない」


 羊によって発生するダメージ量は問題でなかった。当てて、微量でもダメージを与えることが大事だった。


 最後に手札に残ったカードが光って消える。死神が空を飛んで黒い球体に触れた。黒い球体の落下が止まる。黒い球体がボロボロと崩れ消える。瓦の体も動けるようになった。


 危機は去った。嘉納はここで貴重なカードを四枚使用した。だが、気になることがあったので嘉納に尋ねた。


「なぜ攻撃対象を黒い球体にしたんだ? 俺を攻撃すれば勝てた。黒い球体も止められた」


 フッと笑って嘉納は答えた。

「某の仕事はあんたにわからせる、ことだ。殺すことじゃない」


 格好を付けてくれるが、戦いを終わらせるにはいいタイミングだ。


「たいした奴だ。参ったよ。俺の負けだ」とでもいえば綺麗に決着する。流れからして負けたから許さん、とはならないだろう。あとはキャシーに任せて敗戦処理をしてもらおう。


 降参宣言をしようとすると、空が暗くなる。見上げれば、先ほどと同じ場所に黒い球体があった。黒い球体を見て嘉納が驚いた。


「馬鹿な! 確実に破壊した。死神の一撃で破壊された対象は蘇生も再生もできないはずだ!」


 瓦が呼び出した存在ゆえに理解できた。黒い球体は再生したわけでもなければ、蘇生したわけでもない。同質の存在が再出現した。まずい、黒い球体は普通の方法では止められない。


「ワーーー」の叫び声が聞こえる。護衛が御老公を置いて逃げ出した。


 さっきまで大物ぶっていた御老公も慌てた。

「待て、ワシを置いて行くな。足が痺れて立てん」


 いい感じに終わりかけていたのに、パニック状態だ。人間はいざという時に本性が出るというが、正に当たりだ。


 嘉納の手札は二枚あるが、最期の希望だろうか。


 嘉納が申し訳なさそうに尋ねてきた。

「やっぱり死んでもらっていいかな? 収拾が付かん」


 良いわけがない。とはいえ、嘉納の口ぶりでは手札のカードではどうにもならない。


 今から車を奪って逃げても間に合わない。でも、物は考えようである。黒い球体が一度は破壊されたためか、動けるようになっていた。動ける分だけ先ほどより状況はいい。


「待て俺がどうにかしてみる。一緒にあの黒い球体を破壊するんだ」


 打算か良心かわからないが、嘉納は瓦に対して敵意も殺意も向けてこない。横から攻撃される心配がないのはいい。とはいえ、瓦にはまともな攻撃手段はない。吹矢は飛ぶが、上空の目標には届かない。


 仮に黒い球体が吹矢の届く距離まで降下して来たとする。そうなれば、瓦の残り寿命は二十秒を切っている。ダメもとで瓦は狂乱波砲拳を空中に撃った。狂乱波砲拳は重さがないためか、上空へは飛ぶ。


 狂乱波砲拳は黒い球体に命中するが表面で弾ける。

「これはシャボン玉を気球に当てているものだな」


 狂乱波砲拳は多段ヒットするが、百万発撃っても黒い球体の耐久度を十万分の一も減らせない。かといって、諦めるほど瓦は潔くもない。ひたすら狂乱波砲拳を撃ち続ける。


 瓦が虚しい努力をしていると、嘉納が「ドロー」と叫ぶ。嘉納がカードを引いた。カードによっては逆転があるかと期待した。


 嘉納はガックリと項垂れて、カードを手札として保持しただけだった。いよいよもって後がなくなった。「どうする?」と思案するが名案は浮かばない。


 御老公の狂気じみた叫びが響いた。

「ハハハ、終わりじゃ。この世の終わりじゃー」


 人が諦めてない時に、気持ちを削るような言葉は止めてほしい。瓦は狂乱波砲拳を放ち続けるが、いよいよもって最期の時が来たなと、感じた。

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