第二十一話 嘉納
不機嫌な顔で可能が金網の中に入ってきた。時間が経過したせいか吹矢が再度出せるようになったと悟った。
吹矢の再使用を嘉納に知らせてはいけない。嘉納に吹矢が有効かどうかわからない。だが、効くか効かないかは嘉納にもわからない。吹矢は牽制や不意打ちに使ったほうがいい。
瓦は嘉納の動きに警戒しつつゆっくり下がった。吹矢は吹かねば飛ばない。ある程度の距離を空けておかないと危険だ。掴まれたら投げを防げない。
嘉納は金網に入るが距離を詰めない。理由はわからないが、距離を開けての試合開始はありがたい。嘉納は構えない。自然体で立っている。嘉納には隙が見えなかった。
御老公が威勢よく告げる。
「これが本番じゃ。嘉納に勝てたら怒りを収めよう。始め!」
嘉納の手がゆっくりと動く。嘉納の右手を胸の前まで上がる。
「デュエル、スタート。ドロー」と嘉納が叫ぶ。
嘉納の手の中に二枚のカードが現れた。意外な展開に瓦は声を上げた。
「カードを使って戦うのか?」
瓦の声に嘉納が目を吊り上げて怒る。
「どう戦うのかは、某の自由だ! 指図は受けん」
姿格好からてっきり投げ技と、組み技で戦う近接戦タイプかと疑っていた。
瓦はここで思案する。
「もしかしたら、カードを出現させたのは油断させるつもりか? カードは手品で隠していた物を出しただけ。俺が距離を詰めると危険なのか」
瓦の思考を気にせず、嘉納は叫ぶ。
「モンスター、ラッパー・ゴブリンを召喚」
嘉納の手札からカードが一枚消える。ラフな格好のドレッドヘアのゴブリンが出現した。
本当にカードでモンスターを召喚した。嘉納は召喚タイプの異能者だ。
だからといって、柔術の腕前が達人級の可能性は捨てきれない。瓦が警戒していると、嘉納の行動が続く。
「手札を一枚場に伏せてエンドだ」
嘉納の前に光るカードが伏せられた。ラッパー・ゴブリンは襲ってこない。
瓦は嘉納の策を予想できた。
「こういう時の王道展開って俺が何かするとトラップが発動する。それでゴブリンから攻撃を喰らうんだよな」
おおよその展開はわかるが、トラップの内容がわからない。発動したら回避できるかもわからない。瓦が動かないと嘉納も動かない。
嘉納のカードを使った攻撃には制限がある。相手が何か行動を起こさないと、追加でカードを引いて動けない。嘉納には苛立ちも焦りもない。
カード・ゲームだと長考は遅延行為と見做され、ペナルティが発生する。嘉納が苛立たない理由は悠長に構えていると、何か罰が発動するからだ。確認するには黙っていればいい。だが、遅延行為ペナルティの内容によっては瓦は危険な状態に陥る。
「狂乱波砲拳」
瓦は叫んで技を放った。見えない力の塊が嘉納目掛けて飛んだ。
嘉納が力強く叫ぶ。
「トラップ・カード、悪魔の悪戯を発動。対象はランダムに変更される!」
伏せてあったカードが光る。狂乱波砲拳は空中で一度止まる。狂乱波砲拳が瓦に向かって来るかと身構えた。だが、狂乱波砲拳は再び嘉納に向かう。対象がランダムなので嘉納が再び対象になった。
「運のない奴だな」と安心すると、嘉納が叫ぶ。
「ラッパー・ゴブリンの特殊効果の誘導を発動。味方を対象にした攻撃の対象を敵に変更する」
嘉納の宣言と同時にラッパー・ゴブリンが歌って踊る。狂乱波砲拳は反転して瓦に飛んできた。
戻ってきた狂乱波砲拳を横に避けた。狂乱波砲拳が瓦に誘導されるかと焦った。だが、大きく避けると狂乱波砲拳は瓦を追ってこない。そのまま通りすぎて、背後に消えた。
狂乱波砲拳が消えると、ラッパー・ゴブリンも消えた。
「ドロー」と嘉納が叫ぶ。瓦が行動したから嘉納はまたカードを使えるようになった。
カードを引いた時に今度は瓦も動く。嘉納を相手にして後手に回る選択は危険だ。
吹矢を出して嘉納に撃った。距離があったので嘉納はさっと避けて、カードを引いた。
嘉納の能力が見えてきた。嘉納が行動中でも瓦は動ける。嘉納はカードを使うと相手が行動しないと、カードを引けない。カードの中身はわからないが、かなり制限を受ける能力だ。
カードの名前を相手に告げる。カードの効果を相手に教えるのも制限の内だ。ならば、嘉納が手を進める前に潰す。瓦は可能にカードを使わせまいと、仕掛けた。
「狂乱波砲拳、狂乱波砲拳、狂乱波砲拳、狂乱波砲拳、狂乱波砲拳」
次々と瓦が放った狂乱波砲拳が嘉納に向かっていく。嘉納が回避しても狂乱波砲拳は誘導型だ。さっきはカードの能力で無理やり対象を変えたら瓦を追尾しなかった。今回は違う。嘉納が避けても狂乱波砲拳は追っていく。五回も放てばどれかに当たる。
瓦の予想に反して嘉納はカードを引いて叫ぶ。
「魔法カード、鉄壁の守りを発動。ターン終了まで発動プレーヤーは移動できなくなる。代わりに、ダメージが九十九%カットされる」
嘉納が叫び終わると狂乱波砲拳が次々と嘉納に当たる。多段ヒットで蛙を一発で倒した狂乱波砲拳だが、ダメージを九十九%カットされた状態では嘉納を倒せなかった。
嘉納は攻撃を受けながら二枚目のカードを読み上げる。
「魔法カード、引き寄せを発動。敵プレーヤーを自分の前まで引き寄せる」
急に体が嘉納の方向に引っ張られた。瓦は踏ん張って耐えようとした。耐えるほど引き寄せる力は強くなった。力は強い。いずれは抵抗できなくなる。下手に嘉納の前で転ぶ形になると危険だ。瓦は嘉納に向かって走った。
嘉納に体当たりをするぐらいの覚悟で走る。危険を感じた。嘉納の直前で引く力がよわくなったところで横に曲がった。
「チェスト!」と嘉納が叫んで手刀を振り下ろす。瓦が曲がったために手刀は回避できた。岩を砕く音がして。嘉納が放った手刀からまっすぐ岩が避けていた。
瓦はあわてて嘉納と距離を取る。「切れろ!」と嘉納が再び叫んで手刀を振るう。見えない刃が石を裂いて瓦に迫る。瓦はさっと横に躱した。嘉納が舌打ちした。
瓦に複数の攻撃手段があるように加納にも攻撃手段が複数ある。しかも、石を裂くほどの威力なので当たれば洒落にならない。
さすがは御老公の隠し玉だ。だが、ここまで御老公に勝ちを引っ張られた。ここで負けたくはない。
「さて、どうやって攻略しよう」




