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第十八話 ドッペルさん

 瓦のそっくりさんが誰かわからない。初対面なので挨拶をする。

「よく見ているような、滅多に見ないようなお顔ですね」


 そっくりさんも頭を下げて挨拶する。

「初めまして、貴方のドッペルゲンガーです。ドッペルゲンガーは御存知ですか?」


 なんとなく聞いた覚えのある単語だ。

「日本の大企業から出ている有名ゲームのキャラクターですか?」


 ドッペルゲンガーはガクッと項垂れる。

「それとは違います。間違われるのは嫌なので、ドッペルさんと読んでください。私は相手とそっくりになることで、相手に記憶と能力をコピーできます」


 説明の通りならそっくりなのもわかる。

「コピー能力ですね。ゲームとか時々いますねそういうタイプ。倒すと自分の持っている経験値と同じ分だけ貰える敵もいた気もします」


 強さが同じなら全滅することもあるが、倒せば楽にレベリングできる。ハイリスクかつハイリターンな敵だ。


 ドッペルは瓦の主張をすんなり認めた。

「私にも当てはまりますよ。瓦さんが私を倒した時も、私が瓦さんを倒した時も同じく強くなれますよ」


 記憶もコピーできるなら、残ったほうが本物として生きていける。ただ、瓦はドッペルを倒してもドッペルにはなれない。ドッペルは瓦として生きるのが嫌になればまた別人になればいいので、楽ではある。


「戦った時のリスクは同じ。でも、勝利時のリターンはドッペルさんのほうが有利ですね」


「リスクは同じではなないですよ。私の模倣は完全ではありません。相手の能力の九十七%です。ただ、コピー中に使える私独自の固有の能力はあります。勝率は上下に幅がでますね」


 ドッペルのほうが相手より強い場合は相手をコピーせず力押しする。相手がドッペルより強い場合はコピーして駆引きすれば良い。


「便利な能力ですね。俺と同じ姿なのだから、ドッペルさんの素の力より俺のほうが強いんですか? 全然、そんな気がしませんが」


 ドッペルは軽く肩をすくめる。

「それは戦えばわかりますよ。瓦さんには戦う気はないようですが」


 超常的存在なのか異能者なのかはわからないが、戦うのなら厄介な相手だ。常に負けが付きまとう。俗にいう、戦いたくない相手だ。負ける可能性が五割に近いなら戦わないほうがいい。


 会話にサンジェルマンが入ってきた。サンジェルマンは随分と機嫌が良さそうだ。

「ここで一つ提案がある。君はドッペルゲンガーと戦う気はないかね? 勝てば君の願いを一つ叶えてあげよう」


「今までの話の流れを聞いていなかったんですか? そんなの、いいえ、ですよ」


 サンジェルマンがフンと鼻を鳴らし瓦を腐す。

「つまらん男だ。野心は時に人を成長させるぞ」


「別に芸人じゃないのでつまらなくていいですよ」

「次の提案だ。スカウトをやってくれ。四人ほど集めてほしい。ドッペルゲンガーと他、四人でチームを作る」


「他に頼んでください。俺は就職するんでそんな暇はありません」

 瓦の拒絶に対してサンジェルマンは嫌な顔をしなかった。


 答えを予想していたのか、サラリとサンジェルマンは頼む。

「仕事の隙間時間でいい。君はこれから能力者と出会う。その時に、見込みがありそうな人間にカードを渡してほしい。相手に興味があれば私が接触する」


 スカウトと言っているが、サンジェルマンの頼みは駅前でティッシュを配るようなものだ。副業でできる。イベント会社は小さいのでいつ潰れるかわからない。となれば、貯金を確保しておく必要がある。


「報酬はどれくらいもらえるんですか? 安いのなら断りますよ」

「興味を持って私に接触してきた人間一人に付きフリードリヒ金貨を一枚。私と契約が成立したらさらに二枚追加で払おう」


 聞いた覚えのない名前の金貨だ。有名どころではない金貨なのでプレミアムは付かないかもしれない。となると、金地金の扱いだ。


「重さと金の含有量ってどれくらいですか」

「重さは一オンスなので約二十八g。含有量は七十五%。一枚当たりに含まれる金の量は約二十一gだ」


 カードを渡すだけの仕事ならかなり割のいい仕事だ。下手な鉄砲も数撃てば当たる。百枚も配れれば誰か一人くらいはサンジェルマンを尋ねるだろう。


「仕事の合間でよければ配りますよ」


 サンジェルマンが微笑み告げる。

「チーム・ヤーレンソーランを組織したい」


 キャシーの時もそうだが外国人の感性は独特だ。もっとカッコイイ名前を付ければいいと呆れるが口にはしない。人を集めて組織するのはサンジェルマンだ。サンジェルマンがオーナーなら好きに命名すればいい。


「俺なら絶対に入らないけどね」と瓦は冷たく心の中で皮肉った。視界がフッと暗くなる。気が付くと前回と同様にアパートの自室にいた。


「思った通りだな」と予想が当たって気分が良かった。


 窓の外から赤い光が差している。朝焼けにしては赤いので夕焼けだと思った。


 スマホを見ると、充電が切れている。家に固定電話はない。

「会社に一報を入れたいが、公衆電話がある場所ってあったかな?」


 考えるが思い浮かばない。あるかもしれないが、記憶にはなかった。


 眩しいのでカーテンを閉めようとして外の景色が目に入った。空には太陽が出ていない。にもかかわらず、空は赤黒い。今まで目にした経験のない風景だった。時刻を確認すると二十時、普段ならとっくに暗くなっていい時間帯だった。


「こんな時間か。会社には誰もいないかもしれない」

 通路窓の外から道路を見ると、人気はない。ただ、人の気配がしないわけではない。


 生活音は普通に聞こえる。空は異常だが、眼下の光景は日常とちぐはぐだった。

「こんなこともあるか」と瓦はあまり気にしない。冷凍庫を開けると買っておいた冷凍食品は出掛ける前と同じくある。


 会社に連絡を入れるにしては時間が遅すぎる。連絡は明日の朝一に入れると決めた。異常な空の元、普段と変わらずに瓦は食事を摂った。

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