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第十七話  犯人に告ぐ

 バタバタと足音がする。人が移動する音だ。銃を撃つ音はしない。まだ、戦闘は始まっていない。いつ始まるかと聞き耳を立てる。そうしていると段々と静かになった。


「何か知らない内に問題が起きて解決した。やはり動かなくて正解だ。直に扉が開いて、安全になる。世の中はいつも正しい者の味方だ」


 問題が解決したのなら医者なり、看護師なり、事務員が訪れる。その時に会社に連絡を取ってもらえばいい。仕事時に巻き込まれた事件だから、柱谷なりキャシーが迎えに来る。倒れた看護師は誰かの来訪時に回収してもらおう。


 院内放送用のスピーカーが鳴った。スピーカーから厳しい口調の男の声がした。

「君は包囲されている、人質を解放して大人しく病室から出てこい」


 院内にいるのはモンスターではなく、犯罪者だと知った。


「解決はこれからなのか? 病院ならモンスターより犯罪者と出くわすほうが自然だな。逃げた先が病室なら逃げ場もない。愚かな奴だ」


 犯罪者は病院関係者との交渉を拒絶している。なので、院内放送で呼びかけたと判断できた。呼びかけのメッセージが再度繰り返された。


「迷惑な犯罪者だな。窓やドアが閉鎖された状況を理解しているのか? 人質がいても逃げられない。大人しく投降すればいいのに」


 再び院内放送がかかる。男の声は険しさを増した。

「抵抗は無駄だ。抵抗するなら異能者特別措置法に基づき対処する」


 異能者特別措置法は聞いた覚えがない。だが、法律なんて日々、国会で審議されている。国民生活に直結しない法律はニュースにもならない。知らなくても無理はない。


 スピーカーから流れる声が凄む。

「再度、警告する。死にたくなければ投降せよ」


 短い言葉だが、各個たる信念が感じられた。

「往生際が悪い犯罪者だな。どんな奴か顔が見てみたい。どんな間抜け面やら」


 院内放送の男の声がうって変わって静かになる。

「これが最後の警告だ。無視した場合は射殺を辞さない」


 展開が早い。院内にいるのは警察ではない。警察ならもっと時間を掛けて説得する。警察でなければ射殺もある。


「犯罪者は誰か知らないが、終わったな。人質を取って立てこもるのだから殺されても仕方ないか」


 バンと大きな音を立てて扉が爆破された。なんだ? と驚いていると、銃を持った兵士が入口から銃を向けていた。


 人違いだと思ったが、声を上げる前に銃が火を噴いた。目の前が暗転する。


 次の瞬間、閃光がほとばしる。目を開くと、以前に見たサンジェルマンの館があった。

「今日はよく気を失う日だ。怖いな、脳に異常があるのかも知れん。なんか、場所もコロコロと変わる。これで明日の仕事が務まるのだろうか」


 瓦が不安に思っていると、館のドアが開いた。中から執事が顔だけ出す。執事の顔はとても嫌そうだった。原因は言わずともわかる。前回の雷を落とした件を恨んでいる。執事が何も言わないので、瓦から挨拶をした。


「前回はご迷惑をかけて申し訳ありませんでした。悪意はなかったんです」


 瓦の挨拶に執事は嫌味で返す。

「悪意なく他人に雷を落とせる人間のほうが、性質は悪い気がしますがね」


 まだ怒っているが、謝ったのでこれ以上の謝罪は必要はなしと瓦は判断した。

「ここから自室に帰りたいんですが、どうしたらいいですか?」


 渋い顔で執事はチクチクと棘のある言い方をする。

「私としても早く帰っていただきたい。ですが、用があると主は申しております。ですので中にお入りください。拒否されてもいいですが、その場合はどうなるか知りません」


「お入りください」とだけ素直に了承すればいいのにと、苦く思う。とはいえ、口に出すほど愚かではない。


「会いますよ。そのほうが楽に帰れそうなので」


 前回は気が付いたら家に帰れた。ならば、今回も同じ対応が期待できた。館の中を歩く。薄暗い館の中は前回と変わりがない。今回は執事が一緒のせいか、少女の笑い声は聞こえてこない。


「前に館の中を走り回っていた、女の子がいたでしょう。今日はいないんですか?」


 瓦の問いに執事が足を止めた。執事は振り向くと気味悪く笑った。

「冥府からの呼び声を聞いたのですね。お可哀想に」


「可哀想なのはお前の頭だろう」と皮肉ってやりたい。だが執事は禿げている。頭の中身ではなく見た目の中傷と誤解される恐れがあった。瓦は皮肉を飲み込んだ。


「声を聞くとなにが起きるんですか?」


 執事は目を細めて、意地悪く語る。

「死にます。ある者はリングの上で戦死。またあるものは雷に撃たれ感電死。またある者は銃撃に巻き込まれて死にました。さて、瓦様に何が起きるのやら」


 嫌味を兼ねたブラックジョークだ。執事が挙げた三つは既に体験済み。でも、死んではいない。こういうやたら「死ぬ、死ぬ」と不吉な言葉で人をからかう人間はいる。


 何が楽しいのかわからない。でも、前回は雷を落として痛い目をみさせた。


 悪いと瓦は反省している。執事の趣味に瓦は付き合った。

「人間、誰が、どこで、どうなるかはわかりませんよ。死ぬ度に生き返ったりしてね。ぐふふふ」


 瓦の言葉を聞くと、執事はムッとした。


 執事は正面を向くと、スタスタと歩き出す。執事の趣味に合わせたつもりが、逆に気を悪くされた。何が悪かったのかわからない。執事は面倒くさい男だ。瓦にうんざりしたと予想できた。


 赤い扉の前に着いた。執事が扉を開けると強烈な赤い光が差した。瓦は一瞬目を瞑る。目を開けるとなぜか部屋の中にいた。部屋の中には四人の人物がいる。


 サンジェルマン、執事、瓦ともう一人の瓦だ。もう一人の瓦は鏡に写っている像ではない。精巧な人形でもない。瞳に宿る生気が生きた人間だと語っている。


 瓦には双子の兄弟はいない。クローン人間を造る実験に協力した過去もない。とすると、他人の空似なのかもしれない。着ている服から背格好まで同じなのだから、ちょっとした驚きだ。

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