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第十六話 野外にて

 エレベーターで地上に着くがまだ爆発音が続いていた。

 瓦の心に不安はなかったが、気にはなった。


「爆発音が続いていますが、戦争でも始まったんでしょうか? 世界大戦でも老人大戦争でも始まってもおかしくはない世相ですが」


「花火大会ですよ。もう、夜ですから」


 花火ならしばらく鳴っている。だが、そんな遅い時間だろうか? 

 瓦は時計を見ると、二十時を過ぎていた。


「いつのまにか夜だ。そんなに長い時間、地下でお婆さんと話していたわけではないのにな。時間泥棒にでもあったか?」


 時間が早く進む現象に巻き込まれたのかと、不審に思った。


 キャシーが軽い感じで感想を口にする。

「今日は忙しかったですね。時間が経つのもがアッという間でした。瓦さんも同じではないですか?」


 楽しい時間や、忙しい時はすぐに時間が経つ。だが、焼きそばの屋台は暇だった。そんなに楽しくもない。とはいっても、素直に答えると印象が悪くなる。


「そうですね」と瓦は取り繕った。キャシーが頷いている。今日は時間が経つのが早いとしておいたほうが無難だ。時間経過については気にしないと決めた。


 廊下を歩いていると、火薬の匂いがする。施設内の換気は充分なはず。

 瓦が疑問を持つとキャシーが瓦の心を読んだかの如く説明する。


「外は雨が降っています。花火はスタジアム内で行っています。さすがに屋内でやる花火は匂いが強いですね」


 屋内での花火はできないイベントではない。試合に出たからわかる。試合会場の天井は高い。打ち上げ花火でなければ可能だ。パフォーマーたちが手に花火を持って踊っているなら花火は可能だ。


 キャシーは通路をドンドン歩いていく。どこに行くかわからないが、従いて行く。


 通路では壁に穴が空いていた。また、血を撒き散らしたように赤い染みがある。

「ここで大規模な戦闘があったのか?」


 横を通り過ぎながら、キャシーが説明する。


「イベント用の塗料をお馬鹿さんがぶちまけたんでしょう。壁の穴は元から空いていましたよ。明日に向けて掲示物は交換します。なので、掲示物がない今は穴が見えてだけです」


 さすがにちょっとおかしいと疑った。だが、キャシーの顔には恐れも緊張感もない。


 人がバタバタ死ぬような戦いがあったとする。果たしてキャシーのように平然としていられるだろうか?

キャシーの表情は明るい。


「瓦さんが想像しているような戦闘は起きていないですよ。もし、起きていたら一人ぐらい廊下に倒れているはずです」


 キャシーの指摘はもっともだ。歩いているが廊下に倒れている警備員はいない。兵士もいない。人間が見えなくなっているのなら説明は付く。人間を透明にできる装置や薬があると思えない。


 外に出ると雨が降っていた。外で作業をする人は大変だな、と同情する。


 キャシーが財布から金を出して瓦に渡した。

「これで温かい物でも買ってください。明日が最終日なので頑張ってください」


 試験雇用期間の最終日。ここまでは特に問題はない。さりとて、認められるような業績もない。柔軟な対応が求められる職場ではあるが、金周りがいい職場だ。現状であれば続けてもいい。


 施設を後にしてコンビニに向かった。替えの下着は前日に買っているので必要ない。飯も宿舎に行けば出る。コーヒーとスイーツが目当てだった。


 コンビニに着いたがシャッターが下りていた。窓からは灯が漏れていない。無人状態だった。

「なんだ、二十四時間営業ではないのか」


 コンビニ業界は人手不足とニュースでやっていた。

「バイトが集まらなかったんだな。二十四時間営業は不可能か。町中の繁盛店ではないからな仕方なし、か」


 開店時間がどこかに書いていないか探す。だが、どこにも書いていない。不親切だなといささか気分が悪くなる。宿舎に向かって歩くと、銃を構えた兵士が八人やってくる。


 施設内で見た兵士と違い殺気だっていた。揉め事を避けようと、道の端に寄る。

 兵士は瓦を見つけると、銃を構えて瓦を半円形に囲んだ。兵士が怒気の孕んだ声で叫ぶ。


「止まれ、両手を頭の上に置いて座れ」


 犯罪者扱いだった。弾丸の質量は小さいが速度はある。自動防御で防げる保証はない。自動防御を試せばわかるが、『やっぱりダメでした』となった時の結果は死である。


 コンビニを使えず、横柄な対応をされ瓦はいささかムッとしていた。


 落雷を落として兵士たちを気絶させてやろうと意気込んだ。瓦は胡坐をかいて座ると、両手をゆっくり上げる。人指し指を立て「ドーン」と口にして落雷を発動させた。


 落雷はランダムに落ちるので瓦にも当たる可能性はあった。だが、落雷は浴びた経験がある。死ぬほどではない。来るとわかっていたら意識を保てる自信はあった。


 空が光ったところまでは覚えている。だが、瓦の記憶はそこで途切れた。

 目が覚めると病室だった。窓からは爽やかな日の光が注いでいる。


 体は包帯が巻かれてミイラ男状態に近い。何があったかわからない。体は痺れるように痛い。

 ストレッチャーを押した看護士がやってくる。軽く手を挙げて瓦は挨拶した。


 看護婦が低い声で悲鳴を上げた。

「ギャアー、死体が蘇った」


 死ぬほどの大怪我だったかもしれないが、死んでないから、蘇ってもいない。

瓦が声を掛けようとすると、看護婦はフラついて倒れた。ほどなく、「ビービー」と警告音が部屋に鳴り響く。


 なんだ? と瓦は思っていると病室の窓に無骨な金属シャッターが下りた。次いで病室の入口の左右から鋼鉄の板がスライドしてきた。瓦は病室に隔離された。


「なんか閉じ込められたぞ。これはどういう状況だ。まるでわからん」


 瓦が疑問に思っていると、廊下から警告音が聞こえてきた。まるで怪物でも逃げ出したかのような騒ぎだ。どこからか、怪物が逃げたのなら迂闊に外に出ようとしたら危険だ。瓦は様子を見ると決めた。

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