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第十四話 地下へ

 停電の復旧を待つが中々、復旧しない。通路内をバタバタと黒服の警備員が走る。警備員が消火器を持っていたなら、火災を警戒した。屋内での火災は危険だ。煙に巻かれる。避難する人の将棋倒しに遭う。どちらかが起きたなら自動回避もオート・ガードも関係ない。


 警備員は消火器を持っていなかった。代わりに自動小銃を携帯している。

「暴れると素手での制圧が難しい選手が参加している大会だからな。警備員の所持品として銃は普通だ。問題ない。許可も取っているんだろう」


 警備員を気にしても仕方ない。屋台はいつでも閉められる準備ができていた。だが、キャシーが来ない。こうなると立ち尽くすしかなかった。


 今度は迷彩服に身を包んだ男たちが銃を構えてやってきた。ヘルメットにベストを付けており、警備員というより兵士に近い。また、髪の色や肌の色から外国人と推察できた。


 通行の邪魔にならない通路の隅に瓦は立っていた。兵士たちは瓦を無視して通り過ぎる。ピリピリした雰囲気だが銃口を瓦に向けなかったので、敵とは考えなかった。


「巨大な獣でも逃げ出したか? それとも殺人マシーンか? 宇宙人の襲来はないだろう」


 獣が逃げたとしても恐怖はない。一tの蝿や炎を噴き上げる獅子より危険な存在はそうそういない。いたとしたら、世も末だ。世界の滅びの時は近い。


 兵士が通り過ぎると、横から声を掛けられた。

「このあともう一仕事です。残業代はきちんと出ます。ちょっとだけ危険な仕事を引き受けるなら、追加料金を払いますよ」


 気付かなかったが、いつのまにかキャシーが隣にいた。兵士に気を取られていたのでわからなかった。暗く、煩い音が出ているせいでもある。何もない空間から人が急に現れる事態なんてない。


「内容を教えてもらっていいですか?」


 仕事の追加に不満はない。職場紹介には『危険』と明記されていた。『しっかり払います』とも記載があった。事前に断り書きがあったので想定内だ。


 キャシーはサラリと告げる。

「悪い人たちが施設内で暴れています」


 簡単に言ってはいるが『ちょっと』ではなく『そこそこ』危険な状況の気がする。犯罪者の逮捕は警察の仕事であり、警備は警備会社が責任を持つべきだ。素人が手を出す必要はない。


「俺に戦力を求められても困りますよ。俺は一般人です」

「瓦さんに戦闘能力を求めていません。お婆さんの話し相手になってください」


 仕事の内容としては珍しい類ではない。介護系の仕事ならよくある。

だが、時と場所がおかしい。


「今することですかね?」

「今じゃなきゃダメです。励ましてあげてください」


 助けが来るまで不安にならないようにサポートする仕事か。悪い奴に遭って瓦が撃たれたとする。銃弾がオート・ガードの対象になるかわからないが、なんとかなる気がした。


「行きましょう。話し相手になった分は後できちんと払ってくださいよ。身体介護の経験はありません。なので、介助時に怪我させたら困るので会話だけします」


「いいです」とキャシーは快く了承した。


 キャシーと一緒に歩く。キャシーは通路の端を歩いた。時折、通路の真ん中を武器を持った兵士とすれ違う。兵士は誰もキャシーと瓦を気にしない。


 不自然なくらい呼び止められなかったので、キャシーに尋ねた。

「あの兵隊さんはどこから来て、誰と戦っているんですかね?」


「どこからか来て、悪い人と戦っています」


 答えにならない答えが返ってきた。更に瓦は質問する。

「兵隊さんは味方ですか?」


「どちらかといえば敵です。でも、一般人には銃を向けないでしょう」


 兵士は外国人によって構成されている。自衛隊には見えない。

 交戦規程とか職務規定とか派遣国の法律とか色々あるのだろうと瓦は納得した。


 途中で階段を下りる。立入禁止のロープが張ってある場所を通過する。


「ここは入っていいんですか? 立入禁止の札がありましたよ。後で柱谷さんから怒られたりしませんか? 柱谷さんはこういうの厳しそうですよ」


「関係者だからいいんです。スタッフはOKなんです」


 業務の妨げになるから、入ってはいけない場所はある。厨房や商品置き場に客が迷い込んでも邪魔にしかならない。キャシーも瓦もスタッフなので問題ない。


 人気のないエレベーターの前に着いた。キャシーはスマホとエレベーター横のパネルをケーブルで繋ぐ。次いでアプリを起動させた。数秒で扉が開いた。


 「なんか怪盗みたいな真似をしていませんか? こんなシーンを映画で見たような気がします」


 瓦の指摘をキャシーは気にしない。

「ある程度の権限があるスタッフには支給されてアプリですよ。個別に鍵を用意するより、紛失しないので合理的です」


 支給されているのなら問題ない。瓦に支給されていない理由は下っ端のアルバイトだからだ。スタッフ・オンリーの場所なのに動画を挙げる、お馬鹿なバイト対策でもある。


 エレベーターの扉が開いた。照明関係は復旧していない。だが、エレベーターは生きていた。エレベーターは地下に向かう。


 エレベーターが階数表示のない階まで下りた。表示がないので疑問に思った。

「表示されていないのはシークレット階だからですか? 機密データの入ったサーバとか謎の発明品とか、凶悪死刑囚とかいそうな雰囲気ですね」


「違いますよ。ただ単に表示の故障ですよ」

 停電になるくらいなのだから、エレベーターの表示もおかしくもなる。


 扉が開くと通路が左右に伸びていた。照明は暗いが、歩くのに困るほどではない。


 キャシーは左の通路を指差した。

「ここを真っすぐいくとお婆さんがいる部屋に出ます。話し相手になってあげてください。私は他の人の安否確認をしてきます」


 お婆さんを一人励ますくらいなら余裕だ。二人もいらない。キャシーと別れて進む。


 先には頑丈な金属扉があった。左右開きだが、前に立っても開かない。自動で開くのかもしれないが、電力がないので動かない。


 ダメ元で窪みに手を掛ける。力を掛けると扉がゆっくり開いた。歩くと同じような扉がある。これも開けて更に進む。また同じような扉がある。苦労しながら進んだ。


 先には壁一面に大きなアクリルの板があった。板の向こう側にお婆さんが拘束衣を着た状態で座っていた。お婆さんは目を瞑っている。徘徊の気があるにしてもやり過ぎな気がする。


 瓦がアクリル板の前に立つとお婆さんがニヤッと笑った。


 お婆さんがおもむろに口を開いた。

「言わずともわかる。お前が予言の子か。人類抹殺救済機構に踊らされた憐れな者よ。お前の問いに答えてやろう」


 何を言っているかわからない。お婆さんがとゆっくり目を開いた。


 お婆さんが瓦を見て語る。

「あれ? お主は誰じゃ。なんでここにおる」


 お婆さんは瓦を見ていぶかしんでいた。

 よくわからないがお婆さんは呆けている。


 自傷しないように拘束されているので、不思議ではない。

「瓦です。話し相手になりにきました」


 お婆さんは不審がる。

「いや、知らんな。人違いだろう?」


「知らなくても無理はないですね。初対面ですからね」

 なんとも微妙な空気が二人の間に流れた。

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