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第十三話 停電

 焼きそばの屋台に戻った。焼きそばの屋台は黒髪の若い女性が担当していた。女性の服装は瓦と同じ調理人用の服だった。女性のネームプレートには『戸波』と記載されていた。


 戸波は瓦を見るとニコっとする。

「瓦さんですよね? 交代をお願いします」


 瓦がいない間、別のスタッフが調理担当をしていた。屋台を遊ばせたくないとの上の判断だ。悪戯をされても困るとの措置でもある。


 食材はほとんど減っていない。焼きそばの屋台はここでも不人気だ。誰も食べない屋台なら店仕舞いしたい。だが、ナムのような珍しいもの好きな人もいるので気は抜けない。


 戸波が感じよく話し掛けてきた。

「瓦さんは選手も兼任されているんですか?」


「いや、違うよ。俺はイベント会社のしがない焼きそば調理担当だよ」

 ランワッドとの試合はその場しのぎ。代役なので選手ではない。


 瓦に否定された戸波だが微笑んだ。

「異能者だって、秘密なんですね。強いのだから戦ったほうがいいのに」


 なんか知らない能力には目覚めたが、使い勝手が悪い。とてもではないが「異能者です」と名乗るのは恥ずかしい。また、強いは間違いだ。ランワッドには瞬殺された。


「試合は戦いたい人がやればいい。無理はしないよ。ここで焼きそばを調理していたほうが俺には合っている。怪我もしたくない」


 瓦の答えを聞いた戸波だが、瓦の心は理解していない。

「ランワッドは格上ですよ。ベスト16には残ります。日本には能力者は三人いますが、誰も勝てないでしょう」


 軽食コーナーのスタッフなら試合を見ている時間はない。戸波がさぼって試合を覗いていたのなら、真面目なスタッフではない。どの程度のサボりかわからないので、面と向かっては注意しない。目に余るなら柱谷やキャシーに報告する必要がある。


 素っ気ない態度を装って瓦は尋ねる。

「詳しいね、日本の選手ってどんな感じ?」


 瓦の真意を知らない戸波はすらすらと答える。

「試合に出て負けた真壁さんはダメでしょうね。魔獣に変身する能力は見事ですが、相手を侮り過ぎです。あれでは直に命を落とすでしょう」


 辛辣な評価だが、ファンほど見る目が厳しかったりする。ただ、これで戸波は有罪だ。サボって他の試合も見ている。さらに瓦は探りを入れた。


「後の二人はどんな感じなの?」

「一人は忍者ですね。理由があって今回の試合には出ていません。出ていれば日本は一回戦であんな無様な負け方はしなかった」


 試合に出ていない選手を知っているとは、かなりのファンだ。また、魔獣に変身できる真壁よりも、忍者を評価している。昨日、誤解して瓦を襲ってきた忍者が選手候補だったのなら、運営は賢い。あんな人の話を聞かない奴を選んではいけない。


「あと一人はどんなの?」


 戸波は意味ありげに瓦を見て微笑む。

「それは瓦さんがよく知っているでしょう」


 戸波の中では瓦は異能者に分類されている。どうでもいい。瓦は選手ではない。ヒーローになりたい人間がヒーローになればいい。ランワッドとの戦いでわかった。仮に異能者としてデビューしても上にはいけない。大怪我をした上に全く稼げないなら馬鹿を見る。


「よくわからないが、きっと三人目も強くないよ。知らんけど」


 異能者はポコポコと出現している。今は珍しくても、直に一般的になる。そうなれば、外国人タレントと扱いは一緒。最初は物珍しくても旬の時季はすぐに終わる。


「情けない」と戸波は蔑むように息を吐く。戸波は交代の瓦が来たので屋台から去っていった。

なんかわからない内に期待されて、勝手に失望された。戸波もまた話がわからない人間だ。あまり関わり合いにならないほうがいい。


 戸波と交代してからも焼きそばの屋台は暇だった。昼食を食べに行った。戻っても焼きそばを求める人はいない。昨日より数が全然でない。そのためか食材の補充もなかった。補充があっても余らせるだけなので、気にはならない。


 基本は暇だ。だが、ポツリ、ポツリと注文が入る。タダなんだから食べていけばいいとは思うが、人が来ない。


 アナウンスが入って二日目の試合が全て終了したことを告げる。

「今日はこれで店仕舞いか。この分だと明日はまた移動だな」


 勝ち残った選手名が読み上げられる。知っているのはランワッドだけ。ランワッドは明日に行われる本戦十六名の中に残っていた。


「さすがは俺を破った奴だ」と強者ぶったりはしない。自慢したところで、ランワッドの記憶に瓦は残っていない。当然のことながら本戦出場を決めた選手の中に日本人の名前はなかった。


「開催地の面目丸潰れだな。実力の世界なら致し方なしだ。日本に強い選手がいないと異能力バトルは盛り上がらんな。やるなら、外国人選手の帰化が必要だな」


 明日の対戦カードが発表されるが興味はない。


 クーラー・ボックスを開ける。食材の補充がないので焼きそばの材料は半分以上残っていた。夕食前に小腹が空いた選手がいるかもしれない。焼きそばの屋台の鉄板はまだ加熱した状態にしておく。


 昨日と同様に終了を告げる音楽が流れた。少し痛い思いをしたが、金になったのでよしとした。

「ブン」と音がして真っ暗になった。数秒で通路にオレンジ色の非常灯が点灯した。


「なんだ? 停電か」と近くにいたスタッフが怪訝な顔をする。


 瓦がいる通路には窓がないので外の様子はわからない。朝に宿舎を出る時に雷が鳴っていた。嵐が本格化して、電線が切断されたと見ていい。


 瓦は軽く考えていた。

「金持ちが試合を見に来る施設だ。自家発電装置があるだろう。直に復旧する」


 屋台の鉄板はIHだ。電源を確認するとランプが消えていた。照明だけでなくコンセントからも電気がきていない。鉄板が冷えれば、復旧してもすぐに焼きそばは作れない。


「もう少し焼く気だったが、ここいらが潮時かな。キャシーがいつ来てもいいように準備するか」

非常灯があれば手元は見える。焼きそばの屋台の片付けに瓦はかかった。どうせ、このまま今日は終わりになる。

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