いつもと違う朝
第八話です。
少しだけ、昨日とは違う朝の話。
朝、カーテン越しに薄く差し込む日差しの眩しさに、私は目をゆっくりと開いた。まだ眠気の残る頭のまま身体を起こすと、不意に視線を感じた。
視線の方を向くと、紫の瞳と目が合った。
肩が少しびくっと揺れる。
いつもなら、目が合った瞬間に逸らされるのに、今日は違った。アリアは変わらず、こちらを見つめている。
しばらく見つめ合っていると、不意にアリアが口を開いた。
「……おはよう、リリア」
静かにいつもより柔らかい声で挨拶された。アリアから先に挨拶をされるのは初めてで、少しびっくりしてしまう。
「……おはよう」
たどたどしく返すと、アリアが少し嬉しそうに微笑む。それだけのことなのに、私は胸の奥が落ち着かなくなって、変に口元が緩みそうになる。
そんな時、昨夜のことを思い出した。
震えた背中。鋭く尖った声。酷く冷えた布団。
最後に見た涙で溢れながらも笑う姿。
「……アリア」
「なあに」
「あのあと、こわいゆめ、みてない?」
そう聞くとアリアは何かを思い出したかのように目を伏せるから、私はそわそわして落ち着かなくなってしまう。
「……ええ。もう、大丈夫よ。」
その声は初めて聞くくらい穏やかだった。
私は、ほっと胸をなでおろした。
「そっか」
窓の外では、小鳥の鳴き声が聞こえるくらいに、暖かくて穏やかな朝が広がっていた。
しばらくして、部屋の扉が静かにノックされる。
「おはようございます、お嬢様方」
扉が開かれ、廊下での小さな騒めきに私ははっとした。朝の支度のために、侍女が何人も部屋の中へ入ってくる。侍女達はいつものように微笑みながら挨拶をし、カーテンを開ける。
朝の柔らかい日差しが、部屋いっぱいに広がった。
あまりの眩しさに私は思わず目を細める。
「まあ、今日はお二人とももう起きていらっしゃるのですね」
侍女が少し驚いたように笑う。
「珍しいですわ」
その言葉に驚いてついアリアの方を見てしまう。アリアの動きはいつもより少し遅かった。
昨夜のことが頭をよぎって、胸の奥が妙にざわつく。
アリアの動きが気になって、私はずっと目で追ってしまう。
「リリア」
「……?」
「髪、少し乱れているわ」
そう言って、アリアが私のそばへ来る。私が目をぱちぱちさせている間に、優しく撫でるように、細い指がそっと髪へ触れる。
指が髪を梳くたび、くすぐったかった。何だか離れがたくて、私はじっとしていた。
アリアからふわりと、花みたいな香油の香りがした。
「……痛い?」
アリアが小さく、喉が詰まったかのように尋ねる。
「……ううん」
首を振ると、アリアは少しだけほっとしたように目を伏せた。その横顔を眺めながら、今日のアリアはやっぱり少し違うなと思う。
「……まぁ!」
不意に小さな声が聞こえた。振り返ると、侍女が目を丸くしてこちらを見ていた。
「どうしたの?」
アリアが尋ねると、侍女ははっとして慌てて首を振る。もう1人の侍女が彼女の頭を軽く叩く。
「いえ……失礼いたしました」
そう言って頭を下げた。
その表情は、どこか嬉しそうで、ずっと見たかったものを見つけたみたいに微笑んでいた。
私は訳が分からなくてきょとんとしてアリアを見た。けれど、アリアは何も言わず、静かに目を伏せていた。
読んでくださってありがとうございます。
昨夜の出来事をきっかけに、少しずつ変わり始める二人の距離を書きたくて、この話を書きました。
小さな変化ですが、感じ取っていただけたら嬉しいです。




