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推しの姉が逆ハーレムを築く世界に転生しました〜推しを見守るだけのはずが、初恋が動き出しました〜  作者: ゆい
祝福の中で

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7/10

悪夢

7話です。

 その夜、私は小さな物音で目を覚ました。


 部屋の中は薄暗く、窓から淡い月明かりが差し込んでいる。ぼんやりしたまま視線を動かして、私は小さく瞬きをした。


 かすかに、荒い呼吸が聞こえる。


 アリアだった。


 少し離れたベッドの上で、身体を縮こまらせるようにして、眉を深く寄せて眠っている。呼吸も浅くて、苦しそうだった。


「……やめて……」


 かすれて震えた声が、静かな部屋に落ちる。


 私はしばらく、呆然とその姿を見つめていた。


「わたくし、は……死にたく……な」


 途切れ途切れの声。何を言っているのかはよく聞き取れない。


 けれど、その声を聞いていると、アリアがいつもより遠く感じて、胸元をギュッと握りしめてしまう。


「……アリア?」


 小さく呼んでみても、返事はない。


 私はそっと毛布を握りしめる。


 どうしたらいいのか分からなかった。でも、アリアが苦しんだままにしておくのも嫌だった。


 私はゆっくりベッドを降りる。


 まだ上手く動かない足で、私はふらつきながらアリアの方へ近づいた。


「アリア」


 小さな手で、そっと毛布の端を掴む。


 その瞬間、アリアがびくりと肩を震わせた。


「――触らないで!!」


 鋭い声が部屋中に響いた。


 勢いよく手を振り払われ、私はバランスを崩し、倒れ込んでしまった。


 アリアが荒い呼吸のまま、勢いよく起き上がった。


 紫色の瞳が、何かに怯えたようにこちらを向く。目元には涙が滲んでいた。


 いつもの静かで大人びたアリアとは、まるで別人みたいで、今にも壊れてしまいそうだった。


「来ないで……わたくしは、違っ―」


 アリアは頭を強く抑えながら、震えた声でそう続けた。


 呼吸が上手くできていない。


「……アリア?」


 呼びかけると、アリアがはっとしたように瞬きをした。そして、私の顔を見た瞬間、アリアの表情が凍りついた。


「……リリア?」


 掠れていて、か細い声だった。


 私は何とか安心させてあげたくて、そっとアリアの袖を掴む。


「だいじょうぶ?」


 アリアはしばらく何も言わなかった。


 月明かりだけが静かに部屋へ落ち、アリアの目元に薄い影を作っていた。


 やがてアリアは小さく目を伏せた。


「……夢を見ていただけよ」


 静かな声だった。


 それでも、シーツを掴む指はまだ小さく震えていた。


「こわい、ゆめ?」


 そう聞くと、アリアの指先がぴくりと揺れた。その反応が妙に心に残り、アリアの手をぎゅっと握る。


 アリアはしばらく黙っていた。まるで、何か誤魔化し方を考えるかのように。


「……そうね」


 やがて落ちた声は、とても静かだった。


「少し、嫌な夢だったわ」


 私はアリアを見上げる。


 月明かりのせいだろうか。


 いつもより顔色が白く固まって見えた。


「もう、だいじょうぶ?」


 そう聞くと、アリアはほんの少しだけ目を細めた。


「ええ」


 短い返事で声が少し掠れていた。


 私は小さくアリアの手を握ったまま俯く。


 どうしたらいいのか、分からなかった。


 前世では、誰かが悪夢を見ている場面なんてほとんど見たことがなかった。


 こういう時、何をすればいいんだろう。


 しばらく考えて、それから私はそっと口を開く。


「……いっしょに、ねる?」


 アリアが小さく瞬きをした。


「ねむれるかも、…」


 たどたどしくそう言うと、アリアは少しだけ目を見開いたまま黙り込む。


 静かな沈黙だった。


 やがて、アリアがふっと小さく笑う。


「……おかしな子ね」


 どこか困ったような声だった。けれど、さっきより少しだけ柔らかった。


 そしてアリアは、そっと私をベッドの中に招き入れた。


 ベッドの中は驚くほど冷たかった。温もりなど最初から存在しなかったみたいに。


「これで、だいじょうぶ」


 そう言うと、アリアはなぜか少しだけ苦しそうに目を伏せた。


「……あなたは、本当に」


 そこまで言って、アリアは言葉を止める。


 私はきょとんとしたまま首を傾げた。


 けれどアリアはもう何も言わず、ただ静かに反対に寝返りをうった。


 しばらくの間、部屋には静かな呼吸の音だけが落ちていた。窓の外では、風が木々を揺らしている。


 私は、ぼんやりとその音を聞いていた。


 小さな背中だった。


 いつもは私と同じくらい小さいのに、なぜだかずっと大人みたいに大きく感じる。でも今は、その背中が少しだけ弱く震えているように見えた。


「……リリア」


 不意に、アリアが小さく名前を呼ぶ。


「ん……?」


 眠気の混じった声で返すと、アリアはすぐには続けなかった。


 何かを飲み込むみたいに、唇が小さく震える。


「もし」


 静かな声だった。


「もし、わたくしが——」


 そこまで言って、アリアは喉が詰まったみたいにふっと口を閉ざす。


 私はきょとんとしたまま瞬きをした。


 しばらく沈黙が続く。


「……アリア?」


 沈黙に耐えかねて、私がそう呼びかけると、アリアはゆっくり首を横に振った。


「なんでもないわ」


 その声は、もういつもの静かな声に戻っていた。けれど、私は今の言葉の続きが、妙に気になった。


 胸がぎゅっと痛む。


 今ここで何かをしないと、アリアがどこか遠くへ行ってしまう気がした。


「ねえ、アリア」


「なあに」


「……こわいなら」


 うまく言葉がまとまらない。喉が苦しい。


 それでも私は、一生懸命考えながら口を開く。


「わたし、ずっと、となりいるよ」


「だから、わたしをおいてかないで」


 その瞬間、アリアの背中がわずかに震えた気がした。


「……そう」


 アリアはゆっくりとこちらを向き、目を伏せた。


 私はなんとなくもう一度だけ、ぎゅっとアリアの手を握る。


 今度は、少しだけ強く握り返された気がした。


 そのまま、私が意識が遠のいていった。


 最後に見たアリアの顔は、涙で頬を濡らしながら、なぜか静かに微笑んでいた。

読んでくださってありがとうございます。


今回は、普段あまり感情を見せないアリアが少しだけ崩れる回でした。


リリアはまだ何も知らないままですが、それでも隣にいようとする感じを書きたくて、この話を書きました。

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