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推しの姉が逆ハーレムを築く世界に転生しました〜推しを見守るだけのはずが、初恋が動き出しました〜  作者: ゆい
祝福の中で

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3/10

棘のある花

3話です。

 その日、私たちは初めて屋敷の庭へ出た。


 窓越しに眺めたことは何度もある。けれど、実際に足を踏み入れるのは初めてだった。


 外の空気は思っていたより少し冷たくて、でも気持ちがいい。春の陽射しの下で、色とりどりの花が揺れている。


 私は思わず目を細めた。


 綺麗だ、と思った。


 そんな当たり前の感想が、妙に胸に残る。


 前世では、こんなふうに庭を眺めることなんてほとんどなかった気がする。大学に行って、バイトをして、課題に追われる日々だった。そんなふうに毎日忙しくて、季節の変化なんてあまり気にしていなかった。


 だからだろうか。


 こうして風の音を聞いているだけで、なんだか少し不思議な気持ちになる。


「お気に召しましたか?」


 使用人の一人がやわらかく微笑む。


 私は小さく頷いた。


「……きれい」


 まだたどたどしい発音だったけれど、ちゃんと言葉になった。


「ええ、とても綺麗ですね」


 微笑ましそうに笑いながら、穏やかな声が返ってくる。


 なんだか少し嬉しかった。


 庭は想像していたよりずっと広かった。白い石畳の道。丁寧に整えられた花壇。遠くで揺れる木々。


 まるで絵本みたいだ、と思う。


 ……いや、実際小説の世界なのだけど。


 そんなことを考えながら歩いていると、不意に赤い花が目に入った。陽の光を受けた花びらは宝石みたいに鮮やかで、燃えるような赤に光っていた。気づけば足がそちらへ向いていた。


 綺麗だな、と思って手を伸ばしかけたときだった。


「リリア」


 静かな声と同時に、小さな手が私の腕を引く。


 驚いて振り返ると、アリアがこちらを見ていた。


「それ、触らない方がいいわ。棘があるから」


 次の瞬間、目の前を使用人が慌てて横切った。


「申し訳ございません!」


 私が目を瞬かせている隣で、アリアは静かに花壇を見つめていた。


「気にしなくていいわ。この花は分かりにくいもの」


 その言葉に、使用人たちがほっとしたように息を吐く。


「ありがとうございます、アリア様」


 私はきょとんとしたまま、赤い花を見つめた。言われてみれば、茎に小さな棘が見える。


 けれど、あの距離で気づくものだろうか。しかも、私が触れる前に、使用人達よりも早く。


 まるで最初から知っていたみたいだった。


 私がまだ赤い花を見つめていると、隣で木陰に半分身を隠されながら、アリアが小さく息を吐いた。


「綺麗なものほど、気をつけないと駄目よ」


 ぽつりと落ちた声に、私は瞬きをする。


「……どうして、?」


 アリアは花を見つめたまま、静かに言った。


「綺麗なものには、棘があることもあるから」


 なぜだか妙に耳に残った。その言葉は、花だけのことを言っているようには聞こえなかった。


 風に揺れる赤い花の向こうで、アリアの横顔だけが妙に大人びて見えた。


 なぜだか、胸の奥に小さな棘が刺さったみたいだった。

読んで下さりありがとうございます!

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