94.新人でも許されるのは二度まで
「やめろ、その人は……」
貴族だと忠告しようとした商人を、首を横に振って止める。だが、もう一人止めに来た。こちらは放置するほうがいいな。話をするのに見下ろす趣味はないので、一度降りた。
「この馬鹿が! まずは助けてもらった礼からだろうが!」
若者の頭にごつんと拳を叩きつけ、年配の男性が詫びた。
「すまん、まだ入ったばかりの新人だ。教育が行き届いてなくてな。迷惑をかけたことを詫びる。それと、助けてもらった礼もしたい。夕飯は奢らせてくれ」
「……新人が許してもらえるのは二回までだ。三回目は叩きのめすとしよう。奢りは有難く、できるなら一緒にどうだ?」
護衛達を纏める年配の男性は、それなりに戦闘経験が豊富らしい。身のこなしもスムーズで、対応も好感が持てる。顎の無精ひげがなければ、顔も整っているほうだろう。貴族と接することもあるのか、礼の角度も美しかった。
ぶつぶつ文句を言う新人に、もう一発食らわせて追い払った。
「夕食がこれほどの美女相手とは照れるな」
からりと明るく、豪快に笑って大股に去っていく。その後ろ姿を見ながら、斜め後ろに控えるベスを見上げた。ブリサに跨るベスがこてりと首を傾げる姿に、なるほどと頷く。ベスほど可愛い子なら美女と表現するのも分かるが、私なら美少女と口にしただろう。
ベスの同席も決まってしまったが、私と一緒に食事をするのだから結果は同じ。問題ないと判断して、モニカの鼻を撫でる。それから一息で飛び乗った。
さすがに二度目の盗賊襲来はない。危険な集団と思われたらしい。そのまま次の街までトラブルもなく到着した。馬から降りたら、あの新人が唇を尖らせて近づく。
「俺は認めてないからな」
それだけ言い捨てた。背を向けた相手に追撃する気はないので、肩を竦めてモニカの鼻を撫でる。ぶるんと文句を言うモニカが、歯を剥いて威嚇する仕草を見せた。あの新人の態度が気に入らないようだ。
「許してやれ、子供なんだ」
ぽんぽんと首筋を叩いて落ち着かせ、目を合わせ言い聞かせる。私の代わりに怒ってくれるあたり、本当に愛馬と表現するのにぴったりだ。私達の夕飯は護衛隊のボスの奢りだから、商人からはルカの生肉だけ提供してもらった。
モニカ達の厩にルカも預け、器に生肉を積んだ。新鮮なようで、まだ血が乾いていない。嬉しそうに噛みつくルカに「ここで寝るんだぞ」と言い聞かせた。食べるのに夢中なルカの代わりに、モニカが返事をする。ブリサも任せろと言わんばかりに嘶いた。
さて、今後の旅のためだ。護衛隊をきちんと査定しておくか。




