95.アバスカル傭兵団との会食
宿は商隊主の奢りで、それなりの部屋をもらった。こちらが貴族なのも知っているし、ウルティアとの取り引きもある。腕利きの護衛を追加すると考えれば、この程度の出費は誤差だな。もっと高く売りつけてやればよかったか。
欲張りすぎるのも危険だ、と自分を戒めた。こういう部分が当主に向かない。調子に乗りすぎてしまうのだ。私より冷静沈着なベスのほうが向いているし、表向きは男性が当主を務めたほうが丸く収まる。その補佐として汚れ役も含め、私が支えればいい。
隣のベスは、着替えを購入したらしい。清楚な印象を与える白いブラウスに、紺色のスカート。同じ紺色のリボンを髪と胸元に飾った。美しいと表現するより、やはり可愛いのほうが似合う。
「似合っているぞ」
「ありがとう、お兄様。貴族のお忍び旅に見えるかしら?」
頷きながら、どうやら「兄と妹」の設定を崩さずに動くらしいと判断した。確かに、それならベスを戦わせない理由になる。貴族のお嬢様と護衛のほうがよかったんだが……残念ながら商人達にはバレている。本家の娘と息子が同行する、と聞いている以上、騎士で通すのは無理があった。
「ベスは何を着ても可愛い」
すでにルカは厩で休んでいる。運動量が多くて疲れたのか、すやすやと寝息を立てていた。モニカ達が一緒なので、何かあれば騒いで知らせてくれるはずだ。以前、盗賊に馬を奪われそうになったが、モニカは蹴飛ばして脱走した。きちんと呼びに来たところが偉い。
自分の姿を確認し、乗馬服で問題ないと判断した。シャツも破れていないし、汚れも見当たらない。上着を羽織って、腕をベスに差し出した。腰に手首を当てるようにして、三角に空いた空間にベスが腕を絡める。軽く……肘の下に添える形だった。
階段を下りて、一階の食堂へ向かう。
「おう、こっちだ! 恩人が来たぞ」
護衛団のボスが大声で呼び、その場にいた男達が立ち上がって「ありがとうございました!」と口にする。何も知らない別の宿泊客が驚いているが、気にした様子はなかった。恩人へ礼を口にし、きちんと頭を下げる。護衛団そのものはきちんとしているようだ。
商人の目利きもさほど狂っていなかった。問題は新人教育か。今も先輩に頭を押さえられながら、私を睨んでいた。宿に着いてから、かなり叱られたのだろう。余計に反感を募らせるなら、護衛の仕事は向いていないな。理不尽な雇い主にいちいち噛みついていたら、仕事を干される。
「そんなに感謝されると照れるが……同席させていただこう」
ベスをエスコートして、用意された中央の椅子に座る。向かいにボスが腰かけた。
「俺はアバスカル傭兵団を纏めるアロンソだ、よろしく頼む」
「私はアリス、こちらは妹のベスだ」
自己紹介はここまで。後は勝手に興味のある者同士が名を交換すればいい。運ばれてきた食事はなかなかに豪勢で、奮発してもらったことに感謝した。




