96.楽しい雑談に舌打ちが混じる
ある程度腹が満ちてくると、酒が入る。ここは想像通りなので、特に問題ないと判断した。もし可愛いベスに言い寄ったり触れたりするなら、制裁を加えれば済む話だ。ベスも淡々と料理を味わい、にっこりと笑顔を添えた。
「お二人はどんな関係?」
ぎこちなく敬語を混ぜたのは、アロンソの隣に座る若者だった。左手の甲から肘にかけて大きな傷がある。名をレグロと名乗った。
「兄と妹だ。勘繰るような関係じゃないぞ」
にやりと笑って切り返せば、恋人同士か夫婦と思っていたらしい周囲が驚く。
「え? 髪色とか全然違うじゃないっすか」
金髪に緑瞳の私に対し、シルベストレは灰銀の髪に青い瞳だった。確かに色合いが全く違う。
「父親と母親の特徴をそれぞれに分けて受け継いだんだ」
よく驚かれる内容なので、するすると言葉が出てきた。
「へぇ。そうなんっすか」
頑張って敬語を使おうとするレグロだが、慣れないせいでぎこちない。それでも不快さはなかった。よほど気位の高い貴族なら文句を言うかもしれないが、このくらいなら許容範囲だろう。逆に騒いで咎めるほうが、狭量さを目立たせる。
それなりの地位にある貴族なら、鷹揚に振る舞って受け入れる。それが余裕に見えるからだ。実際の内情など誰も知らなくとも、外で振る舞う仕草に滲むのだ。そこで見極めるわけだが、この見極め方法を知る貴族は逆に利用してきた。
「それにしても、貴族様だろうに……商人と旅をするなんざ珍しい」
ボスのアロンソが切り込む。
「そちらのお嬢様も馬車を使わないとは」
別の男が疑問を呈する。こちらは多少、敬語も使えそうだが……語尾を濁したところを見ると苦手な様子。くすっと笑った。
「キロス王国の親族を訪ねるつもりだ。ベスも私も乗馬は得意だし、貴族の馬車は襲われやすい」
街道沿いを進めば、野営は必要ない。足の遅い馬車なら、何らかのトラブルがあると野営も覚悟しなければならないが、騎乗なら問題なかった。速く走らせれば、次の街で宿を取れる。
この辺を説明すると「はぁ、お貴族様も考えてるんだな」と男は感心した。ここで別の声が割って入る。それも酒に飲まれた愚か者だった。
「あんたらが邪魔しなけりゃ、盗賊なんざ一網打尽だったのによ……ちっ」
嫌味と舌打ちに、全員の視線が集中した。やはりあの新人か。
「いい加減にしろ! リコ」
アロンソが叱りつけるも、こちらを睨む目は緩まない。仕方ない、多少相手をしてやるか。叩きのめすには酔いすぎだから、言葉で潰す方法になるが……。こちらのほうが酔いより長く、奴の中に残るだろう。




