93.盗賊去ってルカを背負う
商談が成立したら、次は履行だ。こちらは用心棒になり、あちらは金銭的負担をする。当然、いい働きを見せれば、多少なり得するはずだった。その意味で、先に盗賊退治の出番がきて幸運だな。
腰の剣を引き抜く。綺麗な構えで騎士のように戦うこともできるが、あれは一対一で戦う技術だった。盗賊相手では通用しない。四方八方から飛び掛かる連中を捌くなら、こちらも型を崩して対応する。足を引っかけようと、後ろから襲おうと自由だった。
こちらのほうが私の戦い方に合っている。四人も戦闘不能に追い込めば、自然と撤退を選ぶのが道理だった。全滅するまで戦う理由は彼らにない。集団を保てるよう、一割も間引けば引き下がった。
盗賊は商売で人を襲う。獲物から得られた金品、商人が差し出した荷、それらを売買して金に換えて家に帰る。ある意味、出稼ぎの一種に過ぎなかった。合図の笛が鳴り、盗賊が引き下がる。私が手足を切り裂いた四人も、仲間に背負われて逃げた。
「追うぞ!」
「無駄だ、やめろ」
護衛の一人が息巻いて叫んだのを、冷静に止める。相手が背を向けた途端、勝ったと思って追撃しようとした。だが、盗賊側も馬鹿ではない。稼業として盗賊を営むなら、危険に対する反撃は準備されていた。おそらく追ったら矢が飛んでくる。
そこまで教える義理はないので、淡々と止める。一言で終わらせ、さっさと馬車のほうへ戻った。手もみしながら褒める商人に「約束は守れよ」と釘を刺して、ベスの手を取る。
「ベス、ルカはどこだ?」
「ここよ」
目立つ真っ白な毛皮が見当たらないので、首を傾げた。盗賊に捕まるほど鈍臭くないと思ったが? 座って花冠を作っていたベスが、敷物の向こうを指さす。草の中に埋もれるようにして、眠っていた。
度胸があるのか、図太いか、はたまた鈍いだけか。どれでも構わないが、腹を上に眠るルカは気持ちよさそうだ。先ほどの干し肉を食べ終え、寝転んだのだろう。牧場で普段走る数倍の距離を移動した。かなり疲れたはずだ。
「仕方ない、今日は背負っていくか」
抱き起こし、重くなったルカを袋に滑り込ませた。途中で目を覚ましたくせに、寝た振りで目を閉じる。時々薄目を開けて、こちらの動きを確認していた。置いていかれないよう、気を張っているようだ。
袋を背負って歩き出すと、ぺたりと寄り添う。完成した花冠を辞退し、代わりにベスの頭に乗せた。私が乗せるよりずっといい。モニカとブリサは、ウルティアの馬だ。特に興奮した様子なく待っていた。先にベスの手を取り、ブリサに乗せる。
モニカに袋の中のルカを見せ「一緒に乗せてくれるか」と声をかけた。ぶるるんと首を揺らし鼻を鳴らす愛馬に跨る。そこへ先ほどの若い護衛が噛みついてきた。
「おい、なんで止めたんだ!」
……この阿呆、本当に護衛任務を受けたのか? この程度の知識と技量で? ……命知らずだな。




