229.他国の未来よりお見合い優先
当代のサンバドル王に聖獣がいないのは、下半身事情と関係あるんだろうか。部屋に引き上げて、そう呟いた。素直な疑問だ。ベッドに腰かけたベスが髪を乾かしながら首を傾げる。
「ありそうな話だけど、それでいくと先代王にもいないと思うわよ?」
先代は聖獣がいた。それを引き継いで、当代は誤魔化した。ところが聖獣が寿命なので、新しい聖獣が……そこで気になった。聖獣の寿命って、何年だ? もしかしたら、私よりルカのほうが長生きの可能性もあるのか。
「お姉様って、どうでもいいことを気にするのね」
「そうか?」
「そうよ。だって、事故で明日死ぬかもしれないでしょう? そうしたら寿命は明日までになるじゃない」
考えても無駄か。まあ、可愛いルカが長生きしてくれたら嬉しいし、当然ベスも長生きしてもらいたい。それでいいかと笑ったら、ベスが両手を広げた。
「お姉様、抱っこして」
「珍しいな」
にこにこと笑顔で待っている可愛い弟を、そのままにする姉ではないぞ? 近づいて膝裏に手を入れ、抱き上げる。筋肉があるからしっかりしていて、見た目より重い。だが顔に出すほど無粋じゃないぞ。
「重いでしょ」
「うーん、そうでもないかな」
きゃう! 足元でルカがぶんぶん尻尾を振る。まさか、飛び乗る気か? ベスをベッドに降ろしたのを待っていたように、空いた腕にルカが飛びついた。ずるりと落ちそうになり、慌てて抱きかかえる。
「危ないぞ、ルカ」
きゃうぅ……。唸ったのは文句か?
「ベス、サンバドル王国への対応はどうする?」
「ある程度考えているわ。でもね、今の私は明日のお見合いのほうが大事なの」
そうだった。明日はベスとグラシアナの見合いだ。ひそひそと二人で話し合い、ベスは自室へ引き上げた。残されたのは興奮して眠りそうにないルカと……くしゃくしゃのベッドだけ。
シーツを引っ張って整え、ごろりと寝転んだ。グラシアナはまだまだ少女で、子どもだと思っていた。それが見合い……相手がベス……。
「似合いだな」
グラシアナはベスの女装に偏見がない。分家の出身だから、一族のしきたりも詳しかった。外部から嫁を貰うより、よほど現実的だ。それに可愛い。ここが重要だ。可愛いだけで半分くらい許されるからな。
いろいろ考えながら、まだ眠りそうにないルカを手招きする。大喜びでベッドに飛び乗ったルカを抱え、ツノを避けて首筋に顔を埋めた。何度も背中を撫でて……気づいたら朝だった。ずっと逃げられなかったのか、ルカは腕の中から睨んでくる。
すまない、寝たら出てっても良かったんだぞ?




