230.着飾ったベスを見守るのは姉の特権だ
ベスの身支度を待つ。グラシアナとの見合いは、ベスにとって着飾る価値のあるイベントだった。銀灰の髪を緩く巻いて複雑に留めていく。ピンの数がわからないほど使用し、ふわっふわの髪型に仕上げた。以前に私が贈った髪飾りを留め、服は膝下までのワンピースだ。
色を紺に近い青を選んだのは正解だな。とても似合っている。日焼けした私と違い、ベスは色白だ。銀髪に青い瞳だから、当然、青系と相性がいい。ふんわり広がるスカートを選び、中にパニエを多めに重ねた。使用人を呼ぶベルに似た可愛い後ろ姿が出来上がる。
「これでいいかな」
「腰は絞らないのか?」
「うん、迷ったんだけど」
グラシアナに気を遣ったのかもしれないな。槍や剣を扱うグラシアナは、腕や腰の太さを気にしていた。きゅっと絞れているし、バランスはいい。だがダイエットして絞った淑女と並べば、明らかにがっしりしていた。
ウルティアでは称賛される、コルセットなしの美しい腰のラインだ。男だが剣術などは程々のベスは、女装趣味に合わせて絞っている。もしコルセットを入れたら、隣に並ぶグラシアナが太く見えてしまう。健康的でいいと思うんだが……。
そもそも声変わり前後の少年は、腰が細い。ウルティアでも見られる傾向だから、輪をかけて細いベスは珍しい類だった。まあ気遣いするくらいには、ベスはグラシアナを好きなのだろう。いいことだ。
胸を膨らませないのは、ベスのこだわりだ。くるりと回って「どう?」と微笑む姿は、可愛い妹だった。
「とても綺麗で可愛い。グラシアナに渡したくないな」
「お姉様こそ、ガスパルにはもったいないわ」
ベスの返しに口を開けて笑い、ベスの背中を押した。
「よし、口説いてこい!」
「口説かれてくるわ」
唇に乗せた紅は、やや青みがかったピンクだ。濃色にしたので、頬紅は控えた。最低限、王子の婚約者をするときに覚えたが、面倒なのでほとんど活用しなかったな。無駄な知識にならなくてよかった。ベスを見送り、すぐに隣室へ向かう。
「行くぞ!」
「……無粋だろう」
眉根を寄せるガスパルを置いて、ルカを抱き上げる。歩き出すと後ろをついてきた。途中で母上が「あら、見に行くの?」と言いながら加わる。当然のように「見届けねば」と理由を付けた父上が増えた。使用人も数人ついてきたが、仕事は終わったのか? まだならバシリオに叱られるぞ。
ぞろぞろと歩き、屋敷を出た途端に気配を消す。息をひそめ、足音を消しながら近づいた。目的地は屋敷東側の庭、東屋のある場所だ。視線を遮る生け垣を作っておいてよかった。こそこそと匍匐前進で近づき、声が聞こえるのを待った。




