228.ウルティアは家族を切り売りしない
父上を殺そうとした暗殺者を、母上は味方に引き入れた。その辺も複雑でややこしい話があるらしい。母上はからりと明るく笑い「私に勝てたら教えてあげても良くてよ」と言い放った。
戦う相手が増えたな。苦笑いして曖昧に頷く。母上にもバシリオにも勝てる気がしなかった。たとえ二人が年老いて衰えたとしても、勝てないだろう。だからこの部分は謎で終わる。それで構わないと思った。人は何でも知りたがるが、届かないものもある。
「話してくれてありがとう、バシリオ。ひとまず……アルダ王国の件を片付ける!」
国は滅びたが、貴族が残っている。彼らから財産と権力を回収し、民に再分配しなければならない。領地を治める者を分家から選び出し、任命して管理させる。やることはいっぱいあった。
「よい心がけです、お嬢様」
バシリオは立ち上がって一礼し、執事の立ち位置に戻った。壁際に控える彼は背筋を伸ばし、いつもと変わらない。なぜか誇らしくなった。これほど立派な執事がいる家もそうはないだろう。
「お姉様、分家への通達なら手配したわ」
「……は?」
せっかく褒められたのに、もう終わった? 私は何もしていないぞ。振り返った先で、ベスが綴じた書類を差し出した。父上が手に取って捲り、目を通して頷く。
「よく出来ている。やはりシルベストレが跡を取り、現場でベアトリスが動く形が最良だな」
「そうね、アリスは実行力があるのに考えることを後回しにするから」
父上の意見には賛同するが、母上はちょっと酷いぞ? それでは脳筋ガスパルと同じ扱いではないか。私はもっと知的なのに。むすっと口を尖らせた。
「そういうところよ、お姉様。安心なさって。私がお姉様を上手に使うから……ね?」
唇に人差し指を当てて可愛く言われたら、反論できないな。確かにそのほうがいいだろう、と大きく頷いた。
アルダ王国は分家の管轄となり、本家はサンバドル王国と対峙する。聖獣のルカがいる以上、無関係を貫くのは無理があるだろう。先代と当代の王の下半身事情はともかく、国としての形も揺らいでいた。
うっかり関わり続けると、倒れてきた際に寄りかかられる。それは迷惑だった。だが、ルカを差し出して犠牲にする選択肢はない。私の我が儘ではない。一族の決断だった。
「家族に迎えた子を、どんな理由があろうと放り出すなんてしないわ」
「ウルティアの誇りに懸けて、そんな愚行は許さん」
母上と父上の断言に、わかっていても嬉しさがこみ上げる。ガスパルが分かったような顔で、私の肩を叩くので手の甲を抓った。なぜお前が得意そうなんだ!




