227.王族であることを厭う理由
セシリオを追い返し、やっと一息吐けた。お茶を用意して差し出すバシリオを見つめる。なぜ話を濁したのだろう。師匠として過ごした期間も長く、家族だと思っている。一線引かれたようで、寂しく感じた。
「仰りたいことはわかりますが、ウルティア本家のご令嬢に相応しくない振る舞いですよ」
注意するバシリオを前に、膨らませた頬を両手で包んだ。わかっているのだ。こういう詮索は無粋で、私らしくない。割り切れない気持ちを溜め息にして吐き出した。
「奥様、お時間をいただいても構いませんか」
バシリオの丁寧な口調に、説教が始まるのかと身構えた。ところがバシリオは許可を得て、斜め向かいのソファーに腰を下ろす。すべてを知る母上は、のんびりとお茶を楽しんでいた。
「暗殺者をしていた理由は、勝てたらお話します。ここは譲りませんが……なぜ、王族であることを隠していたのかは、お教えしましょう」
「いいのか? 師匠」
「あんなに気にしていたのに、殊勝な物言いをなさいますね」
嫌味とも違う、揶揄うような響きだった。いつものバシリオで、師匠だと安心する。王族と聞いて、距離感がわからなくなっていたのだろう。今になって気づいた。私はバシリオを知っているつもりで、知らない顔を見てしまい困惑したのだ。
遠くなったように感じ、どう接していいか迷った。それを見抜かれたらしい。
「サンバドルの先代王は、私の母を無理やり襲いました。ある貴族家の侍女だったそうです。その家の令嬢が、先代王の婚約者で先代の王妃殿下でした。わかりますか? 大事なお嬢様の婚約者に襲われ、誘ったのだろうと周囲に罵られ、逃げだした。数か月後に妊娠に気づき、何度も堕胎を試みたと」
ここでバシリオは一度言葉を切り、ゆっくりと長い息を吐き出した。
「そんな彼女を支えたのが、養父でした。自分の子として育てる、そう言ってくれたと話していました。ひっそりと生きていこう。母は私を産むことを決めました。ところが、先代王妃の周囲は違いました。生まれた子が男ならば、我が子の邪魔になる。そう考えた先代王妃の意向を受け、私たち親子を執拗に狙った……」
どうなったのか、聞かなくてもわかった。母君は生き残り、父君は早くに亡くなられた。おそらく妻と子を守って……。だから母君から聞いた話しか出てこない。父君から聞いた話が一つもないのだ。
「私がバシリオを拾ったのは、彼が十五歳の頃よ。依頼を受けて、この人の首を落としに来たの」
さらりと母上が爆弾発言をする。父上、師匠に狙われて良く生きていたな……足、ちゃんとついているだろうか。不安になって机の下を覗き込んでしまった。




