224.危険だから三回目はやめておけ
「ケ・シーは無事か?!」
馬上で叫んだのは、セシリオだった。四人の騎士を連れて到着したサンバドル王国王太子を見上げ、私はガスパルと顔を見合わせる。
「けし? とはなんだ?」
「ああ、ルカの種族名みたいなものだ」
「そうか」
そんな会話をしている間に、母上とカランデリア様がセシリオに詰め寄っていた。事情を聞いているようだが、尋問風景に見える。
「大変よぉ? あの偽王子、脱走したんですって」
他人事の口振りだな、母上。楽しそうで何よりだ。口元が今にも微笑みに変わりそうだな。父上は「娘を狙う奴は許さん」と意気込んでいる。隣の母上のほうが強いから、荒事は任せた方がいいぞ。
「一大事と呼ぶほどの事件でもないな」
カランデリア様は辛辣だった。あの偽王子がやらかすことなら、私達が問題なく撃退できると考えたようだ。事実なので、評価されて素直に嬉しい。たとえ昼寝中に襲われても、まったく問題なく返り討ちにする。
「ねえ、もう終わっているみたいよ?」
馬から降りるセシリオや騎士を見ていたら、ベスに袖を引かれた。可愛い仕草だな。指先ではなく、ちょんと人差し指の脇と親指で摘まむ。拳のように丸めた手が小さくて愛らしい。などと考えていたら、もう一度引っ張られた。
ベスが示す先には、バシリオが何かを引き摺っていた。たぶん偽王子だろう。
「バシリオ、侵入者か?」
「旦那様、もう片付きましたのでご安心ください」
優雅に一礼するバシリオに引き摺られる偽王子は、ぴくりともしない。焦ったセシリオが駆け出した。
「まさか、殺したのか?」
足は止めたものの、何も言わないバシリオに焦れたようにセシリオは詰め寄る。一応、あんなんでも王の子だから……まずいのか? だが無駄な種蒔きをされずに済んでよかったじゃないか。そんな私の呟きに、ガスパルとベスが頷いた。
たぶん、父上や母上も賛同してくれる意見だ。
「連れ帰って処罰を下す必要があったのです、叔父上」
「叔父と呼ばないでください。これが二度目です」
バシリオが低い声で告げた。背筋がぞくっとする。馬の側にいた騎士が一斉に振り返った。ここまで伝わるほど、殺気を抑えていない。これはまずいぞ。
バシリオは二度目までは許すが、次は何も言わずに実力行使に出る。次に「叔父」と呼びかけたら、セシリオの立場を考慮せずに叩きのめす。その予告だった。
「セシリオ、やめておけ。それ以上バシリオに絡むな」
これは私なりの忠告だぞ。苦情じゃない。それなのに彼はもう一度、禁忌の単語を口にした。
「だが、叔父である事実は……っ」
まだ話している途中で、セシリオの体が宙を舞った。だからやめておけと言っただろう。さすがに殺しはしないが、体に痛みで叩き込むつもりのようだ。騎士が慌てて駆け寄ろうとするが、私とベスが立ちはだかった。
「忠告はした。無視したのはセシリオ自身だ」
やらかした責任はセシリオにある。剣の柄を握る騎士と睨み合う私の腕の中で、ルカが「きゃう」と間の抜けた鳴き声を上げた。




