223.ガスパルは帰らないらしい
「私達は先に帰るけれど、本当に一緒に来ないのね?」
イサベル様が念を押すように確認する。がははと口を開けて笑ったガスパルが頷いた。
「俺はもうウルティアに骨を埋めるぞ!」
「うちは墓じゃない」
ベスが苦情を申し立てる。玄関前には、手の空いた使用人も並んでいた。父上、母上、ベス、足元ではしゃぐルカ、私の隣に当たり前の顔で立つガスパル。カランデリア様は引き上げる準備中で、忙しく玄関内で挨拶して引き上げた。
イグナシオ殿下も困ったような顔をするものの、苦言を呈することはなかった。王族はこういう時に不便だな。うっかり「帰ろう」と言えば命令になってしまう。ガスパルについてきた騎士の半数は国に帰るため、イグナシオ殿下とイサベル様の護衛に加わった。
来た時より大所帯になったため、大量の食糧を積んだ荷馬車をお土産に用意している。恐れ多くも王弟殿下の移動なら、速度は遅いだろう。イサベル様に合わせたのか、イグナシオ殿下も馬車だしな。足が遅いから、日数がかかる。テントなど野営道具も嵩張るはずだ。
「団長……」
涙で別れを惜しむ部下の肩を叩き、ガスパルは「いつでも来い」と笑いかけた。普通なら引退する隊長が部下に「遊びに来い」と誘う場面だが……ここは他国になるのだぞ? 国境を越えての移動になるし、一歩間違うとキロス王国の優秀な騎士の勧誘なんだが。
イサベル様が何も言わないので、私も口を噤んでいた。
「また遊びに来るわ。アリスやベスが来てくれても歓迎よ」
ふふっと笑うイサベル様の言葉に、こちらも理解していないなと気づいた。まあいい。互いの王族が仲良く振る舞うことで、国同士の関係も良好になる。
「あ、それと……お兄様。一度は戻らないと陛下が拗ねるわよ」
「わかっている!」
拗ねる程度で終わればいいが。外交問題に発展する大事件だぞ? キロス王国の王弟妃の兄で、騎士団長だ。国の重要な機密を……知らないだろうな。この性格の男に、そんな危険な真似をする王ではない。うん、何も知らないはずだ。
馬車を挟んで、前後に騎士が整列して敬礼した。動き出した一行が見えなくなるまで見送り、次はカランデリア様の番だと思ったのに……何かが近づいてくる。目を凝らすも、まだ遠いな。こういう時はカンデラの優れた視力が羨ましい。
「サンバドル王国、かな」
父上が呟く。先日、失礼なロエラ公爵が元王子と乱入したばかりだ。使用人の一部が武器を確認する。念のために、ルカを抱き上げた。ただの悪戯好きな狼犬だが、サンバドル王国の聖獣様だからな。なんて名前だったか……奇妙な名で呼んでいた。
思い出せないので、記憶をさらうのは諦める。すぐ出てこないなら、たいして重要な情報ではない。近づく騎乗した集団が、ようやく見えた。五人ほどか。
「あらぁ、楽しそう。交ぜてね」
にこにこしながらカランデリア様が加わる。気配を殺すのはやめてくれ。気づいた瞬間、背筋がぞくっとしたぞ?




