222.新しい技に目が輝く
隙だらけに見える構えだ。大きく振りかぶって腕を上で止め、こちらの反応を窺っているように思えた。だから突っ込まない。私が使った技と同じで、初見殺しの可能性が高い。そう考えた。
「来ないか、ならっ!」
ガスパルの剣が倍の大きさに膨らんだ、と感じた。真っすぐに振り下ろされた木剣は、まっすぐに私を目指す。手前で止める気はなさそうだ。横にして受けた剣が甲高い悲鳴を上げた。少し膝を落として衝撃を逃がす。
腕が痺れる。これは正面からまともに受け止めていたら、ケガをしたかもしれないな。骨が折れるほどの衝撃ではないが、痺れた左腕を庇って後ろに引いた。横にした木剣を支えた左手を握って広げる。大丈夫、問題ない。
まだやれると思った私は、考えるより先に体の向きを変えた。ガスパルに対して正面ではなく、横から対峙する形になる。一歩引いて、体を縦にした。腹部に軽い衝撃があり、見ていた騎士が「勝負あり」と叫ぶ。
「……っ、いまのは?」
「ああ、すまん。掠めたか。ぎりぎりを狙ったんだが」
当たってしまった。そんな口調に腹を立てる気になれなかった。見たことがない剣術に気持ちが持っていかれる。いまのはなんだ? 私も習得できるだろうか。
「ベアトリス殿、痛むのか?」
「アリスでいい。愛称を許すから、今の技を説明しろ」
早口で捲し立て、距離を詰める。仰け反るガスパルの胸倉を掴み、あれは何だと繰り返した。
「少しだけ、離れてくれるか? この距離は親父殿が卒倒する」
父上が? 言われて確認したら、詰め寄った私の体がガスパルに密着していた。もちろん胸もだ。まあそこそこの体形だと思うが、カランデリア様のような悩殺ラインではない。それでもはしたないか? 一歩引き、考えてもう一歩引いた。
なんてことだ! 服の胸部分の生地が少し裂けている。木剣でここまでの威力なら、当たれば大ケガだな。擦り切れたように裂けた布から目を背ける騎士が、タオルを差し出した。有難く受け取ったが、肩にかける。
「技だったな、ゆっくり動くから確認してくれ。説明は苦手なんだ」
ガスパルらしい言い分で、動きを再現した。突きの動作だが、途中の構えが短い。木剣の中ほどを握って突き出していた。これならば予想より早く感じるのも当然だが……。
「実戦だと手が切れるぞ?」
「腰の短剣を使うんだ」
「ああ、なるほど」
納得した。手にした剣を落とした際も使えるし、長剣を囮にして引き付けた敵を刺す技なのか。周囲の騎士は、一気にガスパルへ気を許した。ウルティアでは強者はそれだけで賞賛の対象だからな。




