221.軽く手合わせしようか
「ふんっ、己の身一つ守れぬ男の最期としては、順当だな」
気合いを入れて素振りをするガスパルの隣に並んで、同じように木剣を手に取る。途端に話しかけられ、朝の鍛錬をしながら昨日の噂話を教えた。ガスパルが発した答えに、そうだなと同意する。
他にも騎士達が何人も素振りしたり、手合わせをしたりしていた。聞き耳を立てていた彼らも「自業自得」と言い放つ。それもそうだろう。一族の総領家の女を娶るのに、剣一つ満足に振れないのだ。それならそれで、書類処理や内政、外交に長けていれば誰も文句はなかった。
それもない。ただの血筋だけの無能を押し付けられた、いや……私を奪われたと考える一族の者は多かった。ウルティアが実力主義なので、余計にそう感じる。
実際、モンタネールのカランデリア様の夫は、内政も外交もこなす才能溢れる男だ。武術が得意ではないものの、最低限身を守る程度は嗜むと聞いた。カランデリア様は「私を大好き過ぎて、いないと息が出来ないと鳴く愛玩犬を拾ったの」と微笑んでいたが。
外交面で敵に回せば、一瞬で退路を断たれる。ある意味、恐ろしい番犬だ。愛玩犬扱いできるカランデリア様が凄い。そこまで話したら、周囲も「わかる」と頷いた。そうだろう? 騎士達の賛同を得られ、嬉しくなって木剣を振る。
「体が温まったら、手合わせしよう」
「わかった」
ガスパルの申し出に頷く。願ったり叶ったりだ。キロス王国騎士団長のお手並み拝見と行こう! 気合いを入れて素振りの最低数をこなし、額の汗を拭った。髪は邪魔なので高い位置で結ぶ。こういうのはベスが上手なんだが、今日は仕方ない。
「ベス殿はどうした」
目敏いガスパルの問いに、結んだリボンから手を離した。よし、落ちてこない!
「今日は見合いだ。今ごろはドレスを選んでいるかな」
いや、宝飾品のほうか? おそらくドレスはお気に入りのミントか、薄いピンクだろう。グラシアナの瞳の色に合わせて緑、または髪色に寄せて金茶や黄色。考えながら木剣を構える。
「はじめ!」
騎士の合図で先手を打つ。一歩左へ飛び、低い位置へ沈んでから剣を跳ね上げる。体を起こす力を利用して剣先を飛ばすので、目の前に突然現れたような錯覚をもたらした。これを初見で避けた奴は数えるほどだ。腕試しにはちょうどいい。
「っと、あぶね……」
ガスパルは私が左へ飛んだ一歩分、同じく左へ回った。互いに左へ動いたので、位置の変化がない。下へ沈んだのは驚いたようだが、なんなく木剣の腹で受けた。打ち合う甲高い音につられ、鍛錬していた騎士が手を止めて見入る。
「次はこちらだな」
にやりと笑ったガスパルが、奇妙な構えをした。用心しておく方がよさそうだ。




