219.そういえば、どうなった?
ベスにその話をすると「わかったわ、一緒に出掛けようと誘ってみる」と返ってきた。これまた感触がいいのでは? そう思って母上に相談した。
「あなた……本当に鈍いのね。アマンドを好きなカンデラに気づいたのに、どうしてグラシアナがベスに惚れているのは知らないの」
呆れたと溜め息交じりに言われ、壁際に控える侍女達に視線を向けたら逸らされた。もしかして、屋敷の中で知らないのは私だけか?
「そこまで鈍いのが、アリスなのよね」
しみじみと追い打ちをかけるカランデリア様は、硬い焼き菓子を齧った。ばりっと割れる音がして、噛んでいる間もぼりぼりと音が続く。モンタネール王国で昔から作られる菓子らしいが、とにかく硬い。穀物の粉を使って作られ、しょっぱい。
甘い菓子が主流の大陸で珍しい焼き菓子だった。しょっぱい原因になっているタレが、これまた癖になる香りがするのだ。懐かしいと思いながら、私も手を伸ばした。ばりばりと音を立てて食べるのは、アルダ王国なら作法に反する。だが、ウルティアは関係なかった。
美味しいことが正義で、歯の丈夫な者が多数なので硬さも気にしない。少し甘さがあるのは、外側の粒か? いつもと味が違うので、驚いて菓子を観察した。
「アリス、お菓子もいいけれど……話を聞いているの?」
「ああ、聞いていた。つまりアマンドとカンデラが婚約することになり、ベスの相手にグラシアナを検討しているのだろう?」
「そうよ。あなたが婚約を解消したから、同世代が騒いじゃって。なかなか決まらなかったの。結婚が遅くなると大変だと焦っていたのよ」
なぜ私のせい? 文句を言うなら、イラリオのせいだろう。そう言えば、奴はどうしたんだ?
「母上、カランデリア様。イラリオはどうなったんだ?」
ガスパルもいないし、今なら話してもいいだろう。そう思って疑問を口にした。目を丸くしたカランデリア様が固まり、思い出したように焼き菓子を齧る。咥えていた焼き菓子が音を立てて割れ、真っ赤な唇に残った。噛み砕く音が妙に響く。
「アグスティナ・イルダ・ウルティア。この子って、本当に奇跡みたいな子ね」
「フルネームで呼ばないで頂戴。でもその通りだわ」
なぜだ? 馬鹿にされたような気がするぞ。齧った残りをまた口に入れる。ばりばりと嚙んでお茶を飲む。この菓子はしょっぱいせいか、喉が渇くのだ。
「アリス、あなたは興味がないことには、本当に無関心ね。イラリオ元第二王子は王族籍を剝奪されて、平民になったの。その後、どこぞの貴族が連れて行こうとして……王都の物価高騰に怒り狂った国民に処分されたわ」
母上、家畜ではないのだから「処分」はないだろう。苦笑いして指摘したら、真顔のカランデリア様に「それ以外に表現のしようがない死に方をしたのよ」と返されて、私も真顔になった。




