218.一人と一匹の拗ね方がそっくりだ
部屋に戻ると、ルカが拗ねていた。最近あまり構っていないからか? 外出が続き、留守番だったのが退屈なのだろう。抱き上げて椅子に座り、膝の上に降ろした。ちらちらとこちらを見るが、視線が合えば慌てて顔を逸らす。なんともわかりやすい。
人もこのくらい単純ならいい。深く裏を読み合う関係は疲れるし、意味ありげに匂わせる言葉も同じだった。よしよしと頭を撫で、柔らかな毛皮に顔を埋める。ルカは拗ねるのをやめ、素直に私に飛びついた。目いっぱい尻尾を振り、首筋や肩を舐めまわす。
「尻尾が千切れるぞ」
きゃう! 興奮したルカが顔も舐めた。これはダメと叱って教える。不満そうだが、掟だからな。一族でも犬や鳥を飼う者がいる。番犬だったり、伝書鳩だったり、と仕事がある動物達だ。愛玩動物として飼う者は限られた。
ルカも一応、騎馬隊に従軍する狼犬として登録していた。実際は可愛いが理由だが、分家への示しというものがあるからな。まあ、皆察しているだろう。建前と本音は常にぶつかる。
顔を舐める行為が禁止されるのは、主従関係が逆転する可能性が高いためだ。あくまでも飼い主と同等であってはならない。ルカによく言い聞かせるも、ほとんど耳に入っていないのではないか? もう一度説明しようとしたところへ、ノックの音がした。
「どうぞ」
「失礼します」
顔を覗かせたのは、分家の子爵令嬢グラシアナだった。茶色の髪を引っ張りながら入ってきて、不満そうに唇を尖らせる。これは「どうした?」と尋ねてほしいのだろう。その通りにしてやると、彼女はぼそぼそと語り出した。
「こないだの戦いで、アマンドとカンデラが仲良くなったの」
先を促せば、早口になっていく。
「別にいいのよ? カンデラがアマンドを好きなのは知っているし、うまくいけばいいなと思っていたから。でもね、アマンドと急接近したら私と遊ぶ時間が無くなって……無視するわけじゃないし、たまにお茶をしたり乗馬をしたりするけれど。とにかく時間が減ったの」
それが不満だ、寂しい! 全身で訴えてくるグラシアナは隣に引っ張ってきた椅子に座り、わずかに俯いた。柔らかな髪がふわふわと誘ってくる。手を伸ばして彼女の頭を撫でた。
「ベアトリス様?」
「寂しいと伝えてみたらどうだ? もう少し遊んでくれ、と。アマンドも一緒に出掛けたらいい。もし人数が半端なら私かベスが付き合うぞ」
「……じゃあ、シルベストレ様を誘っていいの?」
「ああ、私もたまに誘ってくれ。寂しいからな」
もしかして、グラシアナはベスが好きなのか? 女装姿を知っていて偏見がなく、親しい異性……意外と近くにいたのかもしれないな。




