217.居心地の悪い食堂の朝食
朝食の場は針の筵だった。ガスパルと並んで座れば、母上がニヤニヤする。離れようとしたら、ガスパルが泣きそうな顔をした。仕方なく並んで座り、隣のベスに話しかけるも上の空だった。可愛いからいいけれどな。
父上はガルガル言っているが、母上にぴしゃんと手の甲を叩かれて黙った。なぜか客人のはずのイサベル様がイグナシオ殿下と食堂に現れる。いつもなら客人の朝食は部屋に運ばれるんだが? と首を傾げていたら、カランデリア様もしれっと着座していた。
「それで、どこまでいっちゃったの?」
イサベル様は夜の女子会のノリで、尋ねてくる。言葉遣いも崩れているようだが、イグナシオ殿下も興味津々なので似たもの夫婦か。やれやれと呆れながら、ゆで卵の殻を剥く。上品なお貴族様は上をカットして掬って食べるらしいが……白身がもったいないだろう。
ウルティアでは食材を無駄にしないため、固茹でにして剥いて食べるのが主流だった。丁寧に剥いて、隣のベスの卵と交換する。いつもの習慣だ。それから自分の分を剥いたが、ガスパルが「……剥き方がわからん」と呟いた。
見れば、手元でボロボロになりつつある。もったいない。
「貸してみろ」
受け取って回り中にヒビを入れた。というか、専用のエッグスタンドに置いてあるのだから……これは半熟じゃないのか? 予想と違わず、ゆらゆらする卵は剝きにくい。
「ほら、剥いてやったぞ」
「ありがとう」
感激した様子で、皿の上に置いた卵を口に入れる。うむ、良い仕事をした。満足しながら自分の卵を剥いた。綺麗に剥いた固茹で卵を皿に置いて、滑らないよう注意しながらナイフを入れる。パンに挟んで食べていいだろうか……視線で問えば、バシリオが首を横に振った。
ダメか。仕方なくカットして口に運ぶ。視線が気になって顔を上げれば、向かいでイサベル様が真っ赤になっていた。イグナシオ殿下は逆に青い。どうしたんだ? この夫婦は。
「お姉様、お願い……しばらく話さないで」
袖を引いたベスに注意され、何か余計な発言をしたか考える。反芻しても何も出てこないが……卵を剥いたことが悪いのか? そのくらいしか思いつかなかった。
カランデリア様は艶やかな笑みで「楽しみね」と母上に話しかけ、「早く孫が見たいわ」と続ける。孫はベスに期待してくれ。
ガスパルは半熟の黄身が皿に残ったのを、恨めしそうに見ていた。スプーンを使って綺麗に食べたが、やはり残ったらしい。仕方ないので、パンを大きめに千切って卵を拭う。それを差し出したら、喜んで私の手から食べた。
なんだかルカに餌付けしているみたいだ。




