216.襲ったか襲われたか、それが重要だ
起こしに来た侍女が大きな悲鳴を上げたことで、私がガスパルと同衾したことがバレた。ちなみに、この侍女は分家の奥さんなので、一族中に知れ渡るのは早いだろう。二日酔いにならずに済んだ私だが、違う意味で頭痛を感じて額を押さえる。
「な、なんだ?!」
飛び起きたガスパルは、ベッドに腰かけている私を見て固まった。ゆっくりと動き出し、周囲をぐるりと見まわす。それから自分の服を上から確かめ、靴も脱いでいない状況に肩の力を抜いた。
「まさか、同じ……部屋で?」
「ああ。だが安心しろ、襲っていない」
襲撃じゃないぞ。そう告げたら、すごくがっかりされた。襲われたかったのか? 次は酔っていても容赦なく攻撃するとしよう。
奥さんは悲鳴のあとで、そそくさと距離を詰めた。私の耳元で「で、どこまで?」と曖昧な尋ね方をした。意味が掴めないが、ひとまず曖昧に微笑んで誤魔化す。すると「まあまあまあ……」などと奇妙な相槌を打ちながら、部屋を出ていった。なんだ? あれは。
「何事! って、お姉様!! 何をしているの」
部屋が割と近いベスが飛び込み、押しのけるように後ろから入ってきたのはバシリオだ。
「お嬢様、昨夜、襲わないようにお願いしたはずですが?」
怖い顔で凄まれ、びくりと肩を揺らした。小さな声で「襲ってない」と返したが、無視される。顔を覗かせて「まああああぁ!」と笑顔になったのは母上だ。すごく嬉しそうだが、なぜ孫の話が出る?
「き、貴様! 叩きのめしてやる……っ! よせ、放せ! うわぁああ!」
父上が怒鳴るも、カランデリア様に引きずられて退場となった。可哀想に部屋に一歩も踏み込めていない。女性に甘い人だから、本気で抵抗できないのだろう。父上の名誉のためにそう考えておく。何もなくてもカランデリア様のほうが強いなんて、思ってないからな?
「見世物ではないぞ」
むすっとした顔でぼやき、くしゃくしゃの髪を掻き乱した。参ったな、婚約者とはいえ……さすがに男と同室はまずい。考え事をしながら、髪を簡単に纏めて髪留めで固定した。と、駆け寄ったベスが解いてしまう。
「ベス? 髪がそのままだと……」
「今日は下ろしていて。絶対よ!」
「……わかった」
理由はわからないが頷く。そう言えば首のあたりが痒い。もしかして虫刺されでもあるのか? 見苦しいから隠しておいた方がいいのだろう。ベスはいつも気が利いて、私に優しい。素敵な弟……妹? がいて幸せだな。
にこにこする私の前で、ベスが溜め息を吐いた。ルカが駆け込んで走り回り、首を目がけて飛び掛かる。それを受け止めて撫でまわした。
「大変、お兄様がアリスを襲ったの? え? 襲われた? どっちなのよ!」
部屋が離れていたせいで出遅れたイサベル様は、すごい剣幕で「襲ったのがどちらか」を追求し始めた。どうでもいいが、ガスパルは一応まだ客人だぞ? さすがに失礼だし、私も腹が減った。解散してもらえないだろうか。




