214.豪快な夕食を楽しむ
元第三王子の実名を誰も聞いていなかった……いや、聞いたはずが覚えていないらしい。父上も首を傾げているので、記憶に残さなかったようだ。不要な知識は排除される、仕方のないことだ。結局呼び方に迷い「偽王子」で落ち着いた。
「偽王子との手合わせは期待できそうにないが、叩きのめしたかった」
「それでは虐めだろう」
やれやれと思いながら、口を挟む。結局、バシリオの裏事情はわからないまま。それぞれ国ごとに客間へ移動し、着替えて戻ってきた。夕食は晩餐会扱いだが、豪快に済ませる。あくまでも豪華ではない。着替えの通達はバシリオ経由だが「汚れてもいい服装」の時点で、晩餐会かどうか怪しかった。
庭先で野営と同じように、肉の塊を焼く。切り分けた肉を皿で受け取り、好き勝手な場所で食べるスタイルだった。我が家では珍しくないが、イサベル様は目を輝かせて喜んだ。やや驚いた顔をしたイグナシオ殿下も、場に馴染んでいる。
堂々と芝生の上に座り、横の木箱にグラスを置いた。ワイングラスの形をしているが、金属製なのでカップと表現するほうが近いか。酒を流し込み、肉に齧り付く。
「今まで食べたどの肉より美味しいわ」
ナイフとフォークで上品に切り分けていたイサベル様は、ついに手で骨を掴んだ。私達家族はもちろん、ガスパルやカランデリア様も同様だ。カランデリア様は不思議と口の周りを汚さずに食べ進め、肉を削いだ骨を綺麗に残した。
ベスは両手で骨を掴み、小さく食べ進める。今日は羊肉で、ルカが骨付き肉をバリバリと豪快に齧った。いい音をさせて骨を砕くから、頭を撫でてやる。ベスが諦めた骨を受け取り、嬉しそうに走り回る。
「ルカ、骨は大丈夫なの?」
「狼と同じらしいから、問題ないだろう」
以前から狼は羊を襲っていた。同じ種族なら、骨まで食べて問題ないはず。
「このタレうまいな」
羊肉に合わせ、葡萄の酢を使ったソースが用意されている。隣にジャムを混ぜたコケモモのソースもあった。炎で照らされた状態では色の区別がつきにくい。
「どっちだ?」
「甘いほうだ」
「ああ、コケモモだ」
頷いてまた齧り付くガスパルは両手も服も襟も、べったりとソースがついている。その姿に頬が緩んだ。上品に食べるのもいいが、こういった面も好ましい。一族に婿入りし、こういった環境に馴染めないなら気の毒だからな。
「お兄様はウルティアに馴染みそうね……ところで、ウルティアは王国にするのかしら?」
イサベル様の言葉に、私とベスは顔を見合わせた。その間をルカが走り抜ける。
「王国?」
「なんだか似合わないわね」
そう、王が治める国が王国だが……ウルティアには似合わないな。




