213.秘密は知る者が少ないほど固い
驚きすぎて場が固まったので、ひとまず解散となった。客間より広い食堂へ移動した私は、壁際に控えるバシリオの顔を凝視している。王族なら……座ってもらうべきか? だが、本家の執事でもあるわけで。
「バシリオは、どうして暗殺者をしていたの?」
ベスは用意された果物を剥きながら尋ねる。そうだ、そこも重要だった。身を乗り出して彼の話を待つ。剥き終えた果実を切るベスの手元へ、バシリオが皿を置いた。いつもながら、どこから食器やカトラリーが出てくるのか不思議だ。
暗器の扱いに慣れた私でも見逃すほど、バシリオのレベルは高かった。
「その辺の事情は、私に勝てたら……教えて差し上げます」
濁されたが、納得してしまう。誰だって言いたくないことの一つや二つあるだろう。もしかしたら、王家か貴族から暗殺されそうになって、撃退しているうちに腕が磨かれたのかもしれない。先代王に手を付けられた侍女である母君の消息も気になるが、彼が何も言わないのなら聞かないのがマナーだった。
「せめて俺には知らせるべきだろう」
母上に愚痴る父上は、正論で叩きのめされた。曰く、秘密は知っている者が少ないほどいい。あなたは口が軽いから……云々。父上の口が軽いかは判断が難しいが、うっかりの多い人だ。うっかり、セシリオにバラしたら目も当てられない。
家族四人とガスパル、執事バシリオだけの食堂は広く感じられた。先ほどまでの人口密度がおかしいのだ。しかもほとんど王族だぞ? あの場で大陸の行く末を決められそうなほど、王族が溢れていた。
モンタネール女王、キロス王弟夫妻、サンバドル王太子、ウルティア本家が四人。おまけのようにベーア侯爵やら、ロエラ公爵もいたが……。ちなみに、カランデリア様は先日まで使っていた客間で休憩、イグナシオ殿下とイサベル様も客間へお通しした。
「きちんと見送ったか?」
尋ねたのは、サンバドル王太子セシリオのことだ。混乱しながらも、城に戻って状況を説明する使命に燃えていた。ベーア侯爵親子が護衛を買って出たので、問題なく帰城するはずだ。
「はい、問題なく」
バシリオは完全に執事に徹しており、王族だと口にしたのが嘘みたいだった。ちなみにロエラ公爵と自称第三王子は、セシリオが連れていった。いや、正確には「連行」したと表現するほうが近いか。戦うまでもなくガスパルとの力量差は一目瞭然、罪人として連れ帰ったが……何の罪で裁くのやら。
「ロエラ公爵は不敬罪と国家転覆ほう助、元第三王子も同じか?」
「国家転覆罪の主犯はロエラ公爵ではないの?」
「第三王子を名乗る阿呆じゃないのか?」
ベスと私の間で意見が食い違い、どちらでも大差ないと二人で譲り合った。ところで……誰か元第三王子の名前を聞いていないか? 呼びづらくて困る。




