211.口撃だけで我慢していたのに
「まあ、我が一族の領地が広がったので……仕方なく、ですな」
父上がぐさりと刺した傷口に塩を塗り込む。お前らが喉から手が出るほど欲しい「王族」の立場も、我々にしたら「義務が生じたから仕方なく」得る副産物に過ぎない。この辺は本音なので、声に実感が籠っていた。
「私は楽しんでおりますわ。何しろ無二の友人が女王になってしまって、今後のお付き合いを考えたら、王妃くらいにならないと釣り合いませんもの」
王の妃を「そのくらい」扱いした母上は、からりと明るく笑う。口元を手で覆って上品ぶっているが、知っているぞ。その手の下で唇が弧を描いているはず。してやったりと思っているな。
「それで、ベアトリス殿……いや、ベアトリス様の婿探しなのだが」
頑張って口を挟もうとするロエラ公爵に、ガスパルがきりっと言い切った。
「すでに承諾を得ている。文句があるなら、決闘で決着をつける」
堂々と叩き潰す宣言をするガスパルを見上げ、この身長差もなかなか新鮮だなと関係ないことを考える。女性の中では高身長なので、エスコート役をしても違和感がなかった。だが、ガスパル相手なら隣に並んでも小さく見える。
「なんと野蛮な!」
ロエラ公爵は決闘を回避しようとしたのだろう。わかっているが、今の一言は致命的だったな。我が一族の前で「決闘が野蛮」と決めつけるのは、悪手だ。それも知り得る限りで最悪の一手だった。
壁際に張り付いていたベーア侯爵親子が、そっと移動している。少しずつ回り込み、セシリオに手が届く位置まできた。どうやら、ロエラ公爵が愚かな真似をした際に守るつもりのようだ。
「でしたら、野蛮な我が国も敵に回すお考えね?」
カランデリア様が口を挟み、笑みを深めたイサベル様も参戦した。というか、本当に好戦的な女傑ばかりだ。いや違うな、女傑だから好戦的なのか。どちらが先か考える私の暢気さに気づいたガスパルが、苦笑いした。
「あの二人は気が合うだろうな」
「だったら母上も同じだ。ベスも似たところがあるし」
雑談に興じる当事者をよそに、ロエラ公爵が追い詰められていく。王太子セシリオは彼を擁護する気はなく、ベーア侯爵家も同様だ。孤立無援の状態で、さらに暴言を吐いた。ここまでくると、自滅願望があるのかもしれないと思う。
「女は大人しく嫁げばい……ぶげっ」
最後まで言い切る前に、バシリオの一撃が決まった。誰も手を出さずに口撃だけで戦っていたのに、無言で手だけ出すとは……さすがは師匠だ。顎を押さえて転がるロエラ公爵に、第三王子が泣きながら縋る。
「俺を守れよぉ、王子なんだぞぉ!!」
いや、王子じゃないだろ。咄嗟に突っ込みそうになり、視線を逸らした。




