209.嫌味はそのままお返しする
高貴な方々……と言われたロエラ公爵が、不思議そうな顔をする。壁際に控えるのは執事バシリオ、少し離れて、キロス王弟イグナシオ殿下と妃イサベル殿下、さらにモンタネール王国女王カランデリア陛下だ。ロエラ公爵は振り返り、見まわして僅かに眉根を寄せた。
「年を取ったせいか、思い出すのに時間がかかるようだ」
嫌味を丁寧に包んだが棘がはみ出した感じの言葉は、セシリオだった。彼に対しては不敬が成立しないものの、王位簒奪を考える公爵にしたら黙って引き下がれない。
「王子殿下といえど、さすがに失礼なのでは」
「王太子殿下ですぞ」
きっちりした口調で訂正を入れたのは、ベーア侯爵だった。相手が公爵家であろうと、王族に対する不敬は見逃せない。王家に忠誠を誓う貴族である限り、当然の義務だ。ロエラ公爵は赤くなった顔でぱくぱくと口を動かした。
声になっていないが、俺は認めていないとか何とか。いっそ声に出してくれたら、不敬を適用できるのにな。そんなことを考えながら、ガスパルの表情を窺った。なぜ……お前まで怪訝そうな顔をしているんだ?
「どうした」
「いや、目の前のじいさんは公爵家当主だろう? なぜ「王太子」を「王子」と間違えるんだ?」
こそっと顔を寄せて尋ねたら、意外にもはっきりした声が返ってきた。本人はこっそり質問したつもりのようだが、元から声が大きい。加えて、驚きで調整がイマイチだった。天然なのに、煽りまくる。
「それは仕方ない。サンバドル王国の王位を狙っているようでな? 以前から我が一族に粉をかけているのだ」
父上がさらりと爆弾発言をする。わかっていても、当事者はあたふたするらしい。ロエラ公爵は取り繕おうとして「あ、え、あ……」とどもった。第三王子は挙動不審で、今にも逃げ出しそうだ。ベーア侯爵はロエラ公爵を睨みつける。
王太子のセシリオはさすがにどっしり構えているかと思いきや、視線を泳がせていた。
「父上、本当のことだが口にしたら気の毒だろう。それと……さすがに陛下や殿下方に椅子をお勧めするべきでは?」
「あらぁ、気が利くわね。アリス」
私の指摘に母上が乗ってきた。手にした扇を畳み、それで第三王子を指し示した。
「まずはそれを片付けて頂戴、次は隣のお年寄りを」
母上の指示で、一族の侍従が動き出す。バシリオが指示した通り、まず第三王子がソファーから立たされた。壁際に押し付けられ、ロエラ公爵も同様に。その間にベーア侯爵は自ら立って一礼し、カランデリア様に椅子を譲った。
迷った末、セシリオはそのまま。当事者ではあるが、私とガスパルも立ち上がった。さて、どう収めるのが一番華やかだろうか。




