208.高貴な方々が壁際にずらり
ロエラ公爵が顔を歪める。なるほど、権力への執着が凄まじい人物だ。ウルティアを取り込んだ功績に加え、聖獣を従えれば……と自分に都合の良い未来を思い描いたのだろう。
牽制役でセシリオが同行し、さらに対抗馬まで用意した。万が一の場合はベーア侯爵家を選べば、円満に婚約解消できる算段だ。王太子なりに考えたな。クルス公爵家のフリアンやビビアンとは顔見知りだった。あの家は王家に近い立ち位置だが、王位の簒奪を考える様子はない。
「我が婚約者は美しい。外から虫が引き寄せられるのは致し方のないこと。安心召されよ、すべて排除してみせる」
出会ったばかりの頃の『凛々しい騎士団長様』降臨だ。普段の脳筋ぶりが嘘のように、リエラ侯爵らしい振る舞いを見せる。好感度が高まるが、敵の闘争心も煽っているようだぞ?
「彼はどこの?」
体格のいいガスパルに驚きながらも、ロエラ公爵の口振りは傲岸不遜だった。王の血を引く第三王子より格下だろうと見下す。その感情を隠しもしない愚者に、セシリオが額を押さえた。
「キロス王国、リエラ侯爵閣下です。王弟殿下の義兄でもあり……騎士団長として国の中枢にいる人物。なにより、私が認めた男だ」
きっぱりと引導を渡すつもりで言い切ったが、意味が伝わらないようだ。しばらく考えるロエラ公爵の隣で、第三王子がきゃんきゃんと騒いだ。曰く、王の血を引く俺様が偉い、らしい。
「我がサンバドル王家には、王子は二人だけ。残念ながら、弟は病死している」
お前は王族ではない。セシリオが援護射撃を行う。悔しそうにしながらも、王家の血を引く部分を強調してまた騒ぎ始めた。ガスパルはきょとんとしている。あれを思い出すな、騒がしい小型犬に吠えられて困惑する大型犬だ。弱い犬程よく吠える。
「すでに相愛の婚約者がおられるのであれば……」
そっと辞退を表明するベーア侯爵家の株が上がる。楽しそうな顔で見つめる母上は、右手を頬に当てて笑みを深めた。
「失礼するわ」
笑みを湛えたカランデリア様が室内に入り、イグナシオ殿下と腕を組んだイサベル様も身を滑り込ませる。こうなると、客間がぎちぎちだった。高位の方々を立たせたままでよいものか……迷った末に立とうとするが、バシリオに視線で止められた。
なぜだ? カランデリア様は女王だし、イグナシオ殿下も王弟で……。はっとする。まさか、高位の方々を立たせっぱなしにした罪で不敬に問うとか? いや、そんなレベルの低い争いはしないだろう、というか、しないと信じたい。
「再考願えないか」
ロエラ公爵が再び口を開いた瞬間、母上が動いた。
「結論は出ておりますのに、まだ粘るの? もうお帰りになってくださらない? 高貴な方々をお待たせしておりますのよ」
まずは一手!




