207.部屋の人口密度が高いんだが?
迎えに出たバシリオが目配せする。どうやらセシリオも同行したようだ。婚約者のフリを頼まれたのは、ベスだった。となれば、まさか……?
「二人ほど、お見えです」
視線での問いかけに、バシリオは淡々と人数だけ返した。つまり、名を呼ぶ価値のない二人か。ならば王太子からの申し出はないな。たとえセシリオでも退けるが、面倒が減ったのは良いことだ。
「わかった」
確認するまでもなく、父上や母上が応対しているだろう。バシリオについて歩き出そうとしたガスパルの殺気に、私は溜め息を吐く。
「ガスパル。エスコートもしない気か?」
言外に「私と求婚者、どちらを優先する?」と尋ねた形だ。すぐに足を止めたガスパルの笑顔が剥がれ落ちる。驚いた様子で私の顔を見つめ、慌てて腰を折った。深く一礼して手を差し伸べる。その手を取り、少し考えてから腕を組んだ。
手首を掴まれ引き寄せられても、ガスパルは逆らわない。腕を組むと胸が触れるが、動揺はなさそうだ……いや、すまない。凄い形相になっているぞ? わずかに距離を空け、胸が触れないよう気を付けた。そんな獣みたいな顔でエスコートされるのは怖いからな。
「ベアトリス、戻りました」
「あら。早かったのね」
母上がにこりと笑い手招く。腰かけているのは二人? いや、もっと多い。応接セットが足りなかった。長椅子が追加されているが、それでも足りないだろう。仕方なく手招いたガスパルを一人掛けに座らせ、その肘置きに腰かけた。向かいからだと、私がガスパルの膝に座ったように見えるはず。
誤解させるのを承知の上で、正面の顔を確認する。付き添いなのか、左端でうんざり顔のセシリオ。隣にロエラ公爵と第三王子……おや? セシリオと顔を合わせていいのか? 扉の脇に控えるバシリオは、意味ありげに笑みを深めた。
そして知らない男が一人、こちらも落ち着いた中年男性と並んでいる。頭の中で記憶を探るが、挨拶した覚えはなかった。
「ベアトリス殿との婚約をお願いしたい」
ロエラ公爵が口を開き、そこで初めて判明したのは……第三王子がロエラ公爵の養子になったこと。親として同行したのか。付き合いがあるからねじ込めると考えたなら、短絡的過ぎないか? そもそも、セシリオはなぜ同行したんだ?
もう一組は、クルス公爵家の親族でベーア侯爵家と名乗った。セシリオがこっそりと片目を閉じて合図を寄越す。どうやら対抗馬として用意したらしい。私にすでに婚約者がいることを、セシリオには知らせていなかった。第三王子と婚約になるのはまずいと、手を打った形だろう。
「残念だが、私にはすでに婚約者がいるぞ? これほどの仲だ」
意味ありげにしな垂れかかる。嬉しそうなガスパルが受け止めた。




