205.厄介な男のほうが好ましい
「縁談? ベスにですか?」
「いや、アリスにだ」
「これとは別に?」
驚き過ぎて、ガスパルを指差す。行儀が悪いと自分で指を下げたが、彼は気にした様子がなかった。というより、伯父上を凝視している。
「失礼。いま、ベアトリス殿に縁談と聞こえたのだが」
「そう言ったからな、違って聞こえたら問題だろう」
伯父上は武芸も達者だが、口も立派だ。ガスパルは思わぬ反撃に、口を噤んでしまった。だが気持ちが勝ったのか、また口を開く。かなり頑張っているな。
「俺が婚約者なのに縁談を?」
「向こうはそんなの知らん。年頃の娘、それも有力な一族の総領家の子だ。縁談が来ない方がおかしい」
腕を組んで胸を反らす伯父上は偉そうで、外見のみすぼらしさが霞む。いや、無理だな。
「どうでもいいが、伯父上。臭い」
「ん? そうか? まだ五日目だぞ」
五日も体を拭いていないのか? いくら旅の空でも人前に出ていい状態じゃない。睨みつける私に「やれやれ、アリスも女か」と吐き捨てて去っていった。本当に臭い。だいたい、私は生まれてからずっと女だ!!
「個性的な人だな」
「伯父上は普通だぞ。風呂が嫌いなだけだ」
擁護するわけではないが、個性的と表現するのは違う。一族にはもっと個性的な連中がいる。上には上がいて、伯父上は中の中くらいか。そんな雑談をするが、ガスパルは流されなかった。
「婚約者がいるのに縁談……当然、断るんだろうな」
「……相手と条件による」
一族にとってメリットの方が大きければ、婚約者の入れ替えもあり得る。悪戯心で脅したら、効き過ぎたらしい。目が据わった。それはもう、命を懸ける覚悟が決まったくらいの……恐ろしい顔でにたりと笑う。これは……ヤバイ。
「ああ、気にするな。相手と条件が良ければ、変更もあり得るだろう。だが、相手が生きていてこそ……だぞ?」
遠回しでもなく直球で、相手を処分して終わりと凄む。背筋がぞくっとした。こういう男のほうが好ましい。狂うくらいの覚悟もなく、我が一族に加われるはずがない。
「イサベルを急かし、明日出発する」
「わかった」
ウルティアにとっては予定通りだ。イサベル様には悪いが、今のガスパルは魅力的だった。ぞくぞくする。止める気はない。縁談を持ち込んだ相手は気の毒だが、この際、ガスパルを判断する試金石になってもらおう。
機嫌よく鼻歌まじりに王城へ戻る。隣で変な顔をしているが、どうした? 尋ねてもガスパルは無言を貫いた。追いかけられたアマンドは、グラシアナに数発殴られて顔が腫れている。殴り返さないのは偉いぞ。そう伝えて、私の分も一発見舞った。カンデラに手当てしてもらえ。




