203.くそっ、おっさんのくせに!
モニカ達のブラッシングを行い、分家のアマンド達と芝生に寝転がる。空は夕暮れの赤に染まり、大きな鳥が右から左へ飛んで行った。巣に帰るのだろうか。
「あのさ、本当にベアトリス様はあの男と結婚するのか?」
「ああ、本家で受け入れた婚約者だ」
ガスパルを示すアマンドに、しっかりと返す。聞き間違いがないよう伝えたら、泣きだしてしまった。何か悪いことを言っただろうか。身を起こして座れば、泣いたアマンドが背を向ける。
「アマンドはね、ベアトリス様が好きなの。恋愛の意味よ、もちろん」
グラシアナの言葉に、目を見開いた。アマンドを凝視してしまったのは……その、申し訳ない。泣くほど好きだったとは知らなかったんだ。驚き過ぎて、固まったというか。
「ベアトリス様は鈍いから、直接言わないと伝わらないって何度も忠告したの。でも言い出せなくて、気づいたら婚約者が出来ていたってわけ」
「だっ……て、っ、まだ……俺、ガキだから、さ」
しゃくり上げるアマンドの言葉をまとめると、もっと大人になったら告白するつもりだった。いまはまだガキだから相手にされない。でも強くて逞しい男になったら、見直してくれるだろうと。なるほど、その意味では年下は不利だな。
「いい男になって、一族を支えてくれ。私が悔しがるくらいにな」
振り向かせてやると、つっかえながら言い切ったアマンドが立ち上って走る。その先にいた馬に、ぶるるんと抗議された。きちんと馬を避けて走るところが、アイツらしい。
黒鹿毛のフィトにブラシを掛け終えたガスパルが戻ってきた。当然のように隣に座り、寝転ぶ。
「俺を指差して、何の話だったんだ?」
「気づいていたのか。私の婚約者がガスパルだと話していたんだが」
さすがにアマンドが泣いていた話は省いた。若くても男の子には、触れてはいけない尊厳があるからな。傷つけたら取り返しがつかない。
走り去ったはずのアマンドが、こちらへ戻ってくる。全力疾走だが……ん? 後ろから複数の馬が駆けてくるのは、もしかして怒らせたか?
「くそっ、おっさんのくせに! 惚れたのは俺のが先だぞ、食らえ!!」
叫びながら走り抜けた。つまり、後ろの馬達はそのまま我々のいる場所へ突入する。咄嗟に避けたグラシアナが、友人であるカンデラを引っ張った。二人は抱き合うように転がり、木陰に逃げ込む。ベスがいなくて良かった。もし巻き込んでいたら、アマンドに説教するところだ。
立ち上がって横へ数歩移動した。これだけで興奮した馬達の視線から外れる。ガスパルはやれやれとぼやき、立って体を横にした。馬の流れを受け流すようだ。馬というのはよくできた生き物で、足元にある障害物を避ける。無理な時は踏むが、足が折れたら死ぬ動物だ。今回もきちんと避けてくれた。
「あのガキにはきっちり説教だな」
走り回る馬を見送り、ガスパルは前髪をぐしゃりと乱した。




