200.姉上はいい女ですよ ***シルベストレ
姉上はとても美しい人だ。顔立ちはもちろん、立ち姿もその心のあり様も。すべてが人目を惹くし、好ましい。にもかかわらず、愚かなアルダ王家のせいで認識が歪んだ。
姉上に命を救われた王ですら、顔の傷から目を逸らす。他の王族は「王子の妻に相応しくない」と口にしたが、姉上以上の未婚令嬢がいるのか? 母上やカランデリア様クラスでなければ、到底敵わない。傷のある顔を隠さず堂々と晒す振る舞いこそ、王家に賞賛されるべきだ。
僕の女装癖も嫌な顔をせず、いつだって「可愛い」と受け入れてくれる。そろそろ見苦しくなるかな? と思う年齢だが、姉上が喜ぶ間は続けてもいいと自分を許せた。大切な姉は、家督を僕に譲りたいらしい。
正直、姉上が継いだ方がいいと思う。しかし、本人は「補佐は任せろ」と胸を叩く。あの胸元に巻いた邪魔な布も取り去ってしまえばいい。姉上の心に絡んだ嫌な言霊もすべて、引き千切ってやりたかった。ただ、それをするのが僕ではないというだけ。
「お姉様は素敵です」
何度も必死で投げかけてきた。お世辞と思い込んで流されるのは、いつものことだ。何十、何百と繰り返して刷り込んでいく。悪く言われた回数を越えれば、姉上はきっと自信を取り戻す。
分家の当主や後継の中にも、姉上を支持する層がいるのに。気づいていないんだろうな。そう思っていた矢先、アルダ王家討伐の戦が起こった。姉上を傷つけた王の首が落ち、あっという間に戦後処理が始まる。
領地の分割、貴族の持つ財産の回収と再分配、今後の統治方法について。考えることはたくさんあるが、姉上と話せば道は開けた。カランデリア様の賛同も得て、キロス王国にも反対の意思は見られない。
「ベス、私はそれなりにいい女らしい」
にやりと笑う姉上に驚いた。報告のために離れた間に何があったのか。自信に満ちた笑顔に「当然ですよ、僕の姉上ですから」と返した。嬉しそうに笑う姉上に、カランデリア様も目を見開く。常に本音を隠して表情を作る女傑の仮面が、ぽろりと落ちた瞬間だった。それほど衝撃的なのだ。
「この顔の傷だが、やはり隠したほうがいいだろうか」
思わぬ相談をされる。着飾るつもりなら、ここまで引き上げたのはガスパルか? なかなかやる。
「僕はそのままで薄化粧のほうが、姉上らしいと思います」
「そうか? なら、そうしよう」
近いうちに婚礼衣装を纏い、ガスパルの妻になる。姉上は彼を婿に迎える気でいるから、キロス王国側に要求を吞ませないといけないな。母上や父上も協力してくれるだろう。
「姉上、可愛く髪を結いますね」
今までなら遠慮して断っていたのに、姉上が了承した。やっぱり弟は婚約者に敵わないのか? かなり悔しいが、少しだけ……本当に指の先くらい感謝してやってもいい。




