199.凝り固まった概念を笑い飛ばす
ここで思わぬ人物に説教を受けた。グラシアナの兄だ。
「分家の若造がと思われるかもしれませんがね。ベアトリス様は歴代の総領候補の中でもピカイチですよ? 文武両道、才色兼備、乗馬の技術だって一族で五本の指に入る。それでいて気さくで接しやすい。誰かの良い点を見つけるのがうまいのに、なぜ自分のことになるとポンコツなんです?」
ピカイチだの、ポンコツだの。褒めて貶しているが、その単語はたぶん……他国の者には通じないぞ? 一族内でよく使われる方言だからな。そう思ったのに、ニュアンスで察したらしい。ガスパルが参戦してきた。
「もっと言ってやれ! 俺がどれだけ褒めても、笑って逃げる」
「え? めっちゃ美人ですし……あの強さでしょう? 団長が惚れるのも分かります」
キロス王国の騎士達までまさかの参戦。……参加と言い換えるべきか? いや、私達対男性陣になっているから、戦いで間違いないな。負ける気はないぞ。
「そうは言うが、婚約者となった男の気持ち一つ掴めなかったんだぞ? 女性らしい格好は苦手だし、貴族女性が馬に乗るのははしたないと聞いた。ひらひらした格好で、夫や婚約者の後ろで微笑むだけは無理だ」
「そんなの、特殊ですよ」
「どこのお坊ちゃんですか。ボコってやります」
騎士達が拳を握って力説する。そうなのか? 周囲の男は父上やベス、分家の者達、それからアルダ王国の王侯貴族だった。王族と婚約したため、一年の半分近くを王都の屋敷で過ごす義務があり……馬に乗れないし、剣術の稽古も出来なかった。
中途半端にあれこれ齧ったせいで、どれも完璧ではないことが悩みだが……。ぽつぽつと話したら、なぜか同情されてしまった。
「それは、お嬢様の置かれた場所が悪かったのでしょう」
騎士の一人が、ここで妹の話を始めた。なんでも子爵家の若君に見初められたはいいが、あれこれと制限されて心の病になって帰された。幼馴染みが必死で慰め、ようやく立ち直ったそうだ。
「合わない場所からは逃げていい。それは恥ではない。戦略的な撤退だからな」
ガスパルが締め括った。いま、部下の騎士の話を使って綺麗に纏めたが……後ろで凄い顔で睨んでるぞ? ぷっと噴き出したら我慢できなくて、大笑いした。涙が出るまで笑い、晴れ晴れしい気持ちになる。
馬場で盛り上がったため、近くにいた馬も集まってきた。モニカが顔を寄せてべろりと舐め、フィトやブリサも上から見下ろしてくる。それがおかしくて、また笑い出した。せっかく収まったのに、そう思いながら腹を抱えて笑い続ける。
明日は腹筋が痛いかもしれない。




