198.王の首泥棒が判明
呼ばれないのをいいことに、のんびりしていたガスパルが合流する。分家の者と手合わせを楽しんでいたようだ。キロス王国の騎士も交じっていたが、なんとモンタネールの者も一緒だった。
「交流としては正しいのか」
「そんな堅苦しく考えなくても、楽しかったぞ」
にこにこと笑うガスパルの意外な才能だな。出会ったときのいかつい感じは何だったのか。そう口にしたら「あれはフィトが絡んでいたからな」と返された。確かに私も愛馬モニカが絡んでいたら、いつもより険しい表情になる。
納得していたら、ベスに「似た者同士」と冷やかされた。
「見つけた!」
嬉々として馬場に飛び込んできたのは、グラシアナの兄だ。探索を任せていたが、首泥棒のアジトを発見したらしい。
「こっちだ」
報告先はここだ。そう示すと、真っすぐに走ってきた。その足元から音がほとんど聞こえない。こういった任務に就く者は特殊な歩き方をする。草を踏んでも大きな音がしないのだ。私やベスも含め、一族の者は子どもの遊びに混ぜて、この歩き方を習う。
センスのある者だけ選ばれ、特別な訓練を施すのだ。もちろん、素質があっても本人が嫌がれば終わりなのだが。彼は向いているうえ、こういった仕事が好きらしい。適性があって良かったパターンだ。
「ご報告申し上げます。貴族街に潜んでおりました」
ある意味、想定通りだ。敗戦国の王の首を欲しがるのは、敗戦国の貴族だけ。平民は石を投げたり罵ったりはするが、家族でもない男の首を欲しがりはしない。利用できると考える貴族か、逃げた王族がいれば取り戻そうとするだろう。
「どの家だ」
「名前は知りませんが、こんな紋章の家でした」
玄関の紋章を覚えてきたようで、馬場の砂の上へ指で描いていく。簡略化されているが、十分に家名を判断できる特徴を捉えていた。
「うまいな」
褒めれば、にやりと笑ってこめかみを指先で掻く。
「レブロン侯爵家だ」
茨の中央に翼を広げた鳥……かな? 中央の動物が狼なら別の家だが、鳥に見える。ベスが口頭で確認し、レブロン侯爵家に確定した。
「僕は報告してくる」
ベスが席を外し、ガスパルが顔を寄せた。こそっと耳打ちされたのは「ベスの言葉遣いがおかしい」だった。おかしい? ああ、そうか。女装姿での会話しか知らないからな。
「あれが本来のシルベストレだ」
「本来がどっちなのか知らんが、今までのほうが似合ってたな」
ガスパルの呟きに「よくわかってるじゃないか」と褒めたら、首が真っ赤になった。そうなんだ、ベスは可愛くて私より女性らしい。付け足した本音に、なぜか訂正が入った。
「俺はベアトリス殿も可愛いと思う」
「一度医者に診てもらえ?」
本当に、不安だからな。一度婚約を破棄しているのに、次の婚約者も病気で倒れたら……私が呪われているみたいじゃないか。




