193.揉めずに決まりそうな分割案
戦う間もなく終わってしまい、暴れ足りない気持ちで城を見上げた。アルダ王国の象徴であり、権威の塊だが……取り壊しが決定している。使うなら残してあげるわよ? と茶化したカランデリア様には悪いが、欲しいとは思わなかった。
ベスも同意見で、取り壊しは確定だ。ウルティアはそもそも縦に高い建物より、横に広い建物を好む。先祖がかつて暮らした国の名残りらしい。考え方としては、上から民を見下ろす執政者は下の下というもの。加えて、広い土地を惜しみなく使う平屋造りは最高の贅沢なのだとか。
「父上と母上が不在の上、戦わずに勝ってしまった」
人が傷つかないのは素晴らしいことなのに、残念に思ってしまう。実力を発揮できなかったことが悔やまれた。
「キロスの民が傷つかずに済んで安心した。王も心安らかに……」
「待て待て。キロス王に不幸が来るぞ」
言霊信仰があるため、咄嗟に止めていた。ガスパルはまったく悪気がないようで、きょとんとしている。
「そこは、王も心穏やかに、でしょ?」
ベスが適切な言葉に直してくれた。ほっとする。危うく心安らかに眠ってしまうところだぞ。不吉な言い回しだと指摘され、目を丸くしたガスパルがベスに感謝を告げる。年下であろうと、素直に言葉を尽くすのは好感度が高い。だが、こいつはうっかりが多いな。
今後の協議は、各国のトップが集まって行う……と思いきや、ベスが仕切り始めた。カランデリア様が事前に考えた分割案を見せて、キロス王国側へ説明する。かつて奪われた穀倉地帯とその周辺、川も半分ほど含まれていた。
その川を分かち合う形で、隣にウルティアが広がる。カランデリア様はモンタネール王国と続きになる土地を選んだ。現王都の少し手前までだ。
「これ以上土地が広がると、現在のモンタネールでは管理が行き届かないの」
民を放置して飢えさせるのは、統治者として許せない。だから管理できる場所まで受け取る。わかりやすい言い分に、なるほどと頷いた。
「こっちは陛下に確認だな。代理でいいから、交渉できる人を派遣してもらおう」
ガスパルのこういう部分は好きだ。適材適所、その考え方で動ける。自分が交渉や外交に向いていないことを理解し、誰か別の人に場を譲る。簡単そうに見えて難しい。どうしても「俺だって出来る」と考える奴のほうが多かった。
「いい旦那じゃないの」
カランデリア様はにっこりと笑い、私の背を叩いた。顔を寄せて「しっかり掴まえておきなさいね」と囁く。もちろんそのつもりだと頷き、ガスパルに視線を戻した。
キロス王国は誰を派遣してくるのか……なんとなくだが、読めた。イサベル様か夫のイグナシオ殿下だろうな。予感と呼ぶより確信に近かった。




