192.転がり出た見覚えのある顔
キロスから到着した騎士を追い出す、と受け取られたようだ。考えを巡らせて結論だけ口にするからよ、とベスが眦を吊り上げて叱る。しょんぼりしながら、叱責を受けた。やはり一族を率いるのはベスに決まりだ。私は現場へ出て補佐するくらいで、ちょうどいい。
「……うわっ、父上? あっ、おまえ!」
平民になったと思っていたイラリオが飛び出してくる。いや、違うか。よく見ればイラリオの一つ上の兄らしい。顔がそっくりだと驚いていると、カランデリア様が腰に手を当てて「呆れた」と呟いた。
「似ているけれど顔が違うわよ……まさか本気で言ったの? 婚約者だった男の顔もきちんと覚えていないなんて」
ここで言葉を切られ、また叱られるのかと肩を落とす。
「よほど相性が悪かったのね」
やれやれと首を横に振ったあと、カランデリア様は転がり出た王太子を眺めた。その視線は鋭く冷たい。邪魔だと感じていることを隠しもしない声は、さらに冷え切っていた。
「国が消えれば、王家も滅びるわ。あなたは今、この時から王太子ではなくなったの」
言い聞かせた声が途切れる前に、語尾に重なるように悲鳴が響く。王太子として次の王位が約束され、何不自由ない未来が待っているはずだった。すべてが壊れ、自らも壊れたのか? なんとも無責任なことだ。
元王族ならば、国民のために命を捧げるくらいの覚悟が必要だ。第二王子だったイラリオもそうだが、民は自分達の足元に這いつくばって金を貢ぐ動物程度の感覚でいる。踏み潰しても反撃できない、家畜以下だと。
もしモンタネールとウルティアが、離脱せずに我慢していたら……。このアルダ王国は、決起した民と泥沼の内戦に突入しただろう。王侯貴族と国民が対立し、国は破壊されて荒れる。キロス王国はその兆しを感じたから、戦いの準備をしていた。
「他の兵士はどうした?」
「王都の外壁に待たせました。包囲のために展開しています」
ガスパルの質問に、騎士が敬礼して答える。にやりと笑った私が、悪い言葉で唆す。
「そのまま包囲して、モンタネールとウルティアを倒せばキロス王国の一人勝ちだな」
乗ってくるかと思ったのに、ガスパルは大笑いして眦に滲んだ涙を手の甲で拭った。
「包囲できれば、だぞ? 絶対無理だ」
断言した上司に、騎士が驚きの目を向ける。だが、私やベス、カランデリア様はにやりと口角を持ち上げて笑った。そう、もし包囲殲滅できれば、一人勝ちだ。だが囲まれても、ウルティアは馬術で切り抜ける。戦いの面でも引けを取らないだろう。
一人でも外へ出せば、応援が駆け付ける。キロス王国の未来を考えるなら、素直に穀倉地帯を受け取るのが安全だった。
「キロスの騎士団長、リエラ侯爵……まさか、アリスちゃんの夫?」
「そうだ!」
「まだ婚約者だ」
カランデリア様の質問に、ガスパルと私はまったく違う答えを叫んだ。




