191.一歩遅れた我らと出番を失ったキロス
悔しくても敗北は受け入れる。素直に賞賛の言葉を紡ぐと、カランデリア様はからりと明るく笑った。革鎧なのに靴は踵の高いブーツ、この靴で城内を走ったのか? やはり女傑という表現が似合う人だ。
「ご先祖様によい報告が出来るわ。ところで……ほかの王族なのだけれど」
カランデリア様が切り出したところへ、別の集団が駆けてくる。貴族街の奥からなので、一斉に武器を構えた。ぴりりとした緊張が走る。
「あれは……」
「キロスの旗です!」
最初に見つけたのはモンタネールの騎士だが、見極めるのはウルティアのほうが早かった。ガスパルは目を細めて「まだ見えん」と唸る。旗があるのは見えるし、色も臙脂だと判断できる。だが国旗の模様まではまだ見えなかった。
判断したのはシーロだ。弓を扱う者は視力が優れていることが多い。また草原で牧畜を営む民にも、その傾向は見られた。毎日遠くを眺める生活が、視力を育てるのだろうか。
「間違いないか?」
「はい」
馬の扱いは及第点でも、己の目は自信がある。きっぱり答えたシーロの頭を乱暴に撫でた。その手で、解けた髪を緩く編む。止めようとして髪紐がないことに気づいた。
「これは使えるか?」
ガスパルが革紐を差し出す。鎧用の予備らしい。素直に受け取って、絡めた。結んでから手を離し、礼を告げる。その間に、キロスの旗の紋章が見える距離まで近づいていた。
「リエラ騎士団長、我らキロスの兵が……」
「口上を遮ることになるが、もう戦いは一段落した」
敬礼して声を張り上げる騎士へ、ガスパルが容赦なく現実を突きつける。城門前に置かれた王の首、鎧を着用しない私、革鎧で腰に手を当てて微笑む美女カランデリア様。それらを視線で追って確認し、騎士は馬を降りた。
「馬上から失礼いたしました。ならば掃討戦でしょうか」
これに関しては、どうだろう。アルダ王国滅亡は確定したが、貴族の処遇は考えていなかった。民は土地に根付くため、アルダ王国から割譲する土地と一緒に国が変更となる。だが貴族は別だった。領地について来られても、正直迷惑なだけだ。
だが皆殺しにして終わり、というのも血生臭い。王を積極的に支持しなかったとしても、窘めることもしなかった。それが現在籠城している貴族なのだから。
「出て行ってもらう方法を、考えるか」
考えを巡らせた結果として呟いた言葉は、騎士の顔を引きつらせた。
「いや、ベアトリス嬢。それはキロス王国の騎士に対してさすがに……」
ガスパルが歯切れ悪く紡ぐ隣で、ベスが「お姉様らしい」と笑う。ウルティア側は「いつものこと」と流して、城内へ散っていった。おそらく隠れている使用人を外へ追い出す算段だろう。土地を割るときに邪魔だから、この城は壊す予定だ。
「貴族の話だぞ?」
話が繋がらずきょとんとするガスパルとキロスの騎士達に、カランデリア様は大笑いして腹を抱えた。
「ホント、あなたはマイペースね」




