189.後れを取るは一族の恥
「一段落か」
ガスパルが額の汗を拭いながら、大きく息を吐いた。
「ガスパル」
「ん?」
「いつ来たんだ? どこから?」
ようやく開いた門を見ながら、後ろの男に首を傾げる。ウルティアの民なら、あの瓦礫を馬で突破するのが普通だった。だが、他国出身の騎士……それも侯爵家の騎士団長様が通ってきたのか? 疑問を盛大に詰め込んだ私に、ガスパルは目を丸くした。それから大爆笑する。
「はっはっは、今頃か」
俺の出番がなくなると言いながら、戦いに乱入した姿も覚えている。だが、そもそもどこから来た? まさか同じルートを……通れた、のか??
「他の馬は通れるのに、俺のフィトが二の足を踏むわけないだろ」
黒鹿毛のフィトは、ふふんと鼻を鳴らす。得意げな主人を乗せて、どうだと誇っているように見えた。我が一族に連れ帰ろうと思ったほどの名馬だ、見くびるのは失礼だな。
「悪かった、フィト」
「いや、そこは俺にも一言……」
もごもごと続ける男に、笑顔を向ける。
「さすがだな、ガスパル。キロス王国の騎士団長の名は伊達ではなかった」
「……あ、うん。素直に褒められるとそれも照れる」
小声でぼそぼそと照れるを繰り返すガスパルだが、飛んできた手袋をぱしっと受け取った。と思いきや、落とした。不意打ちだから仕方ないが、なんとも締まらない。
「まだ王城を落としていないのに、お姉様を狙うとは!」
悔しそうなベスが唸る。鎧を着用した兵は、門から進軍するしかない。さすがに瓦礫の山を駆け上がるには、鎧が重すぎた。ぞろぞろと入ってきたのは、戦いの経験豊富な男達が中心だ。その後ろから、気風のいい女達が続いた。
「さっさと片付けといで、あんた! ここでご飯作って待ってるから」
ひときわ声の大きな女性が、夫の背をどんと叩く。破城槌を手にした大柄な男は「おう!」と元気に答えて、手にした槌を放り出した。代わりに仲間から受け取った槍を装備する。
「あっ、お姉様。急がないとカランデリア様が……」
ベスが指さす先、城の辺りに煙が上がっていた。これは出遅れた! 慌ててモニカの向きを変え、号令をかけて走らせる。ガスパルが並び、その後ろにキロス王国の騎士が続いた。アマンドが文句を並べながら追いかけ、弓を手にしたカンデラは見送る側に入る。
ここから先は遠距離攻撃のカンデラは危険だ。グラシアナが剣から槍に持ち替えて続いた。王城の手前にある平民街はどの家も木戸を固く閉ざしている。その先、貴族街との境にある小さな詰所でグラシアナが叫んだ。
「ここは私達が!」
「任せる」
たとえモンタネール相手であろうと、ウルティアが戦場で後れを取るは恥。モニカも私の気持ちを察したように、詰所の柵を飛んだ。アマンドが柵を蹴倒し、騎士達が通り抜ける。どうせ貴族共は戦えない。ならば……このまま城を落とすのみ!




