187.鎧の着用で揉める
キロス王国の合流を待っていたら、モンタネールに遅れる。後で土地の分配を話せば問題ないだろう。そう判断した私の進言で、ベスも軍を進めた。王都の入り口手前で、最後の休憩を取る。
「貴族連中はこの先に逃げ込んだんだよね」
ベスは外見に合わせて言葉遣いを変えている。相変わらず器用だな。ルカが同行していないので、残された癒しはベスとモニカだ。軍服はカッコいいが可愛くはない。もったいないと思いながら、後ろの荷馬車から鎧を取り出した。金属鎧を前にベスが溜め息を吐く。
「可愛くないし、着たくないなぁ」
さすがに本拠地へ乗り込むのに、鎧なしは失礼だろう。カランデリア様もおそらく鎧姿のはずだった。アルダ王国の慣習の一つだが、キロス王国の穀倉地帯を攻めた際に将軍が礼を欠いた。騎士服で鎧をまとわなかったのだ。その例があるので、鎧の着用を迷う。
「我らはこのまま向かう」
鎧は貸せるが、ガスパルは拒んだ。あの非礼を忘れないと顔に書いてある。ならば、付き合ってやろうか。未来の夫になる男が選んだのだからな。
「私も着用しない」
「いや、着たほうがいい。顔に傷でも作ったら」
「いまさらだろう」
顔には傷がある。ほらと見せたら、そうじゃないと額を押さえて呻く。戦場へ向かう道中のため、一切の化粧はしなかった。頬に残る大きな傷は、私にとって欠点ではない。だが、世間的にはそう見えないのだ。にやりと笑った頬に手を這わせるガスパルは、脱いだ手袋を黒鹿毛の背に置いた。
「この傷の分、アルダ国王には痛い目を見せてやろう」
「王がつけたんじゃないが……いいんじゃないか?」
肩を竦めて手を払おうとすれば、ガスパルがさらに距離を詰める。モニカは動かず、黒鹿毛のフィトは器用に馬体を寄せた。私の手を掴んだガスパルが顔を寄せる。口付けたのか、手袋越しではわからなかった。
「婚約者殿の身は、俺が必ず守る」
「やっぱり鎧は不要だな」
暑いし、重い。できるだけ着たくないのが本音だった。その間にブリサから降りて、鎧を装着するベスがぼやく。
「戦場まで来て、いちゃつかれるの……腹立たしい」
「……っ、くそ」
側近として控えるアロンソが舌打ちする。その隣でカンデラが弓の手入れを始めた。それぞれが得物を確認する間に、表情が引き締まっていく。油断が消え、不敵な笑みを浮かべる者もいた。久しぶりの本格的な戦場だ。
まあ、王都の腑抜けた貴族や騎士相手なので、どこまで本格的か疑わしいが……。
「準備出来た? なら、突撃! 目指すは王城、王の首のみ!」
応じる声が上がり、我先にとウルティアの分家が走り出す。先陣は取った者勝ち、戦功は遅れたら取り損ねる。一族の勢いに巻き込まれ、キロスの騎士も沸き立った。
「騎士団長、号令を!」
「キロス王国の意地を見せろ! 進軍!!」
抜いた剣で光を弾きながら号令をかけるガスパルを横目に見て、カッコいいと思ったなど。癪だから帰るまで教えてやらん。




