186.祝いの狼煙を上げたからには ***カランデリア
あまりにもお粗末な結果だわ。呆れ半分で軍を進める。私が気を引く間に、軍備を整える夫が進軍しても勝てたのでは? そう思うほど、アルダ王国は腐っていた。
民を守るべき貴族は、我先に逃げ出す。うっかり逃げそびれた連中は、宝飾品やら金貨やら金目の物を差し出して助命嘆願に精を出す。なんとも情けなくて……こんな連中に支配されていた民が気の毒すぎた。投降した貴族をまとめて牢へ放り込む。
管理を民に依頼した。快く了承する人ばかりで助かるわ。
「大丈夫でしょうか」
「牢番も民よ? 逃げた元雇い主より、家族を優先するのが普通ですもの。問題ないわ」
心配する将軍へ返す言葉は、柔らかな口調に似合わぬ内容ばかり。アルダ王国をもっと早く壊すべきだったかもしれない。チャンスはあった。親友であるアグスティナを王族に加えようと王が目論んだあたりで、やってしまおうか迷ったわ。
「迷ったらダメね」
あの時迷ったのは、アルダ王国の王弟が辞退したから。ウルティアの女主人の価値を理解し、自分では夫の役目を果たせないと引いた。あれがなければ、モンタネールを動かしていたでしょう。でも……そのせいで今度はベアトリスが犠牲になるところだった。
婚約破棄を言い出すよう、愚かな王子を焚きつけて正解だったわ。少し見栄えのする女性に言い寄られたら、甘い言葉をささやかれたら、すぐに裏切る程度の低さに驚いたけれど。常に策を用意しておいて、実行するのが我が一族のやり方よ。
言い寄った女性も、我が一族の末席の令嬢達だった。調べても簡単にわからないよう手を回したのに、まったく調べなかった。おそらくアグスティナは気づいていたはずよ。何も言われなかったけれど、逆にそれが怖いわ。
「王城まであと一日、抵抗はあるでしょうか」
分家の当主である将軍の言葉に、私は肩を竦めた。速度を優先するため軽い革鎧を選択したけれど、正解だったわね。がちゃがちゃと金属音のする鎧では、肩を竦めても見えないでしょうし。何より、重くて暑いから化粧が溶けてしまうわ。
綺麗に引いた紅の残る、口角を引き上げて笑う。
「あるとしたら、既得権益に未練のある貴族かしらね」
「承知しました。片付けさせます」
私が到着するまでに掃除しておく。将軍の言い方に笑みが深まった。
「アルダ王国滅亡の日ね……さて、アリス達は追いつけるかしら?」
盛大に狼煙を上げたのは、今後隣同士になるウルティアとキロス王国へのお祝い。モンタネールとウルティアが離れたアルダ王国に、まともな戦力は残っていない。さあ、愚かな王家の粛清と参りましょうか。




