185.順調すぎて雑談が捗る
進めど敵影は見えず……。どこぞの戦術本に書かれていた文章が浮かんでくる。民は道を空けてくれるし、中には水場を貸す農家まであった。きちんと支払いをしようとするのだが、キラキラした目で「頑張ってください」と応援される始末だ。もちろん、金は受け取ってくれなかった。
「ピクニックみたい……」
ぼそっと呟いたベスに「似たようなものだな」と苦笑いで返す。先ほどは割れた人参を山盛りで提供され、モニカやブリサが美味しく頂いた。他の馬達もご褒美をもらい、ご機嫌で足取りが軽い。
「カランデリア様はどの辺まで進撃しただろうか」
「こちらと一緒で淡々と進んでそう」
ベスが笑いながら手綱を捌く。アルダ王国の王侯貴族の横暴さは酷かった。民はかなり我慢を強いられてきたから、王家打倒を掲げたモンタネールとウルティアに協力的だろう。となると……領地を返してもらいにきたキロス王国は苦戦するのではないか?
「穀倉地帯には、キロスの民が大勢住んでいるぞ」
疑問をぶつけたところ、ガスパルはさらりと答えた。知らなかったと素直に認め、先を促す。すごく嬉しそうに説明された内容では、土地を削られた際に一度逃げ出したらしい。だが先祖代々開墾して豊かにした土地だ。国境を越えて侵入する民が出てきた。
穀倉地帯へ移住させられたアルダ王国の民と結婚したり、雇われたり。様々な形でキロスの民は根付いた。アルダ王国がきちんと住民管理をしなかったため、人が増えたことに気づかなかったらしい。麦や芋の納税が順調だったので放置された、と表現するべきか。
「だとすると、人が流出したキロス王国は大変だったな」
人頭税があるキロス王国で、他国に人が流れれば税が減る。管理していた領主は頭を抱えただろう。覚えた知識で返せば、よく知っていると感心された。
「これまた意外なんだが」
前置したガスパルは肩を竦める。アルダ王国は穀倉地帯を奪ったくせに、その収穫量を把握していなかった。輸入していた穀物量で判断したため、実際より低く納税される。それでも全体量が多かったので、彼らは気づかなかったとか。
「……そんなことが?」
いくらぼんくらばかりでも、官吏が派遣されたのでは? 言葉を省略した私に、ガスパルは後ろの騎士を呼んだ。
「この騎士は穀倉地帯の生まれだ」
名乗って挨拶した礼儀正しい青年は、収穫量に対して求められた税額が少なかった報告をした。だが同時に、獣害からの保護がなく苦労した話も付け足す。
「この害獣駆除を担当したのが、キロス王国の兵士でな? その分のお礼を納付された」
支払われたのではなく、納付……税としてキロス王国が受け取ったのか。なんとも間抜けな連中だ。それでキロス王国がすぐに攻め込まなかったんだな。屈辱を晴らすには勝ち取る必要があるものの、税収はある程度確保していた。力を蓄え、ウルティアの屋敷が売りに出ると手を伸ばす。
モンタネールが動かなくても、来年にはアルダ王国の領地は大きく削られただろう。裏事情を知った私は、呆れを滲ませて溜め息をついた。




