184.ウルティア、出陣
準備ができたのを待っていたように、カランデリア様から合図が届いた。といっても書状のようなわかりやすい形ではない。アルダ王国で狼煙が上がったのだ。合図用にしては随分と煙の量が多いが、何しろカランデリア様だからな。そう口にしたら、誰もが納得した。
「ウルティアも出陣します」
母上の号令で、ベスを頂点とした騎士団が動き出す。その後ろに兵士を束ねた私が続く。なぜかガスパル達キロス王国の騎士団も引き連れて。
「本当にキロス王国へ戻らなくていいのか?」
「戻っていては出遅れるだろう。婚約者を守るのは俺の役目だ」
「守られるほど弱くないぞ」
しっかり釘を刺したのに、やたら嬉しそうだ。足元でルカがくるくると回り、同行する気でいるが……。
「ルカは留守番だ」
きゅう?! 足の先でも踏まれたような声で、苦情を申し立てる。連れて行ってやりたいが、残念ながら戦場では踏まれるぞ? 一応サンバドル王国の聖獣様だし……何かあったら困るだろう。モニカの背から降りて説得し、母上に預けた。
分家のアロンソ達も同行するので、ルカはなおさら納得できない。仕方なく役目を与えた。
「母上と白猫を守れ。ルカを信じているから預ける」
きらきらした目で一周回って「きゃう!」と了承の鳴き声を上げた。くすくす笑う母上に預け、モニカに飛び乗る。鼻を近づけて、モニカとルカは挨拶をしていた。
「はぁ……可愛い女性騎士の制服で行きたかった」
ぼやくベスは、大将だとわかるよう派手な軍服を纏っている。黒地に房やモールが金糸という目立つ出で立ちは、仲間の目印であり旗代わりでもあった。ここはさすがに我が儘で押し通せず、あきらめて袖を通したのだ。
私は女性騎士の鎧を着こみ、これまた目立つペイントを施した。多少、敵の目を引き付けることができれば、ベスの危険を分散できるはず。呆れ顔の父上だが、何も言わずに手を振った。
「全軍、進め」
いつもよりやや低いベスの声で、整列した一軍が動く。本家直属の騎士、志願した兵士、分家がそのあとに続いた。かなり多いな……真ん中に陣取りながら、モニカの手綱を揺らす。物資を積んだ馬車は、追加の兵士に護衛されながら最後尾となった。
モンタネール軍と合流し、アルダ王国を滅ぼす。早くしないと、キロス王国の取り分がなくなるぞ? 冗談めかして口にしたら、ガスパルが「仕方あるまい、世の中とはそういうものだ」と笑った。
以前は領の境目だった新たな国境を越え、街道をひたすら進む。農村を焼かずに残し、民を殺す蛮行も不要だった。ウルティアの旗を見た民は道を空け、なぜか応援の言葉も飛んでくる。アルダ王国、もしかして攻め込まなくても数年で滅びたんじゃないか?
まあ、民が鍬や鋤で戦って傷つくのも寝ざめが悪い。ここはウルティアの雄姿を見せつけてやろう!




