182.婿にもらってやろう
母上の説明によれば、力量の問題ではないと言う。実績が足りないため、外部から合流する兵力を黙らせるのに苦労するだろう、と。
「簡単なことだ、義母上殿。俺が後見に入ろう」
「まだ義母と呼ぶことは許していません」
助け舟を出したガスパルだが、一瞬で船底に穴を開けられた。
「ガスパル。そもそも、キロス王国の騎士団長だろう」
だから無理だと突きつけたら、彼はきょとんとした顔で「いつでも辞めるぞ」と言い放つ。その覚悟は立派だが、辞めさせないために同行を許可した王が泣くぞ?
手合わせはどうなったと思ったら、ほぼ半数が項垂れていた。残りは戦わずして負けを認めた形のようだ。勝ち抜き戦の負担を微塵も感じさせず、タオルで汗を拭くガスパルは私の前で膝をついた。タオルが丁寧に畳まれて横に並ぶ。
「ベアトリス嬢、俺と結婚してほしい」
「……ウルティアの役に立つなら、婿に迎えてやろう」
にやりと笑って返した。今回の戦いが終われば、キロス王国に大きな戦力を残すことは危険だ。ウルティアに取り込んで、尻に敷こう。そう考えた私に、ガスパルが嬉しそうに笑った。なんと表現したらいいのか、まるで母親の迎えに気づいた幼子のような。真っすぐな笑顔にこちらが照れる。
ちょっとだけ胸が高鳴った。不整脈かもしれない。
「ありがとう!」
大喜びするガスパルが立ち上がって走り、負けた騎士達が肩を叩いて祝福する。引き倒して鍛錬場の土の上を転がる姿に、母上は額を押さえた。
「やんちゃな子が増えたわね」
「アリスの婿としてなら、我慢してやらないこともないが……」
渋い顔でややこしい言い回しをする父上が肩を落とした。強さを自他ともに認めるウルティアの騎士達は、ガスパルを受け入れる。少なくとも、一族の足手纏いにはならない。私にとって、それで十分だった。侯爵と騎士団長の肩書きに元はついてしまうが、キロス王国との太いパイプを手に入れる。
「モンタネール王国が動いたら、私達も呼応する予定よ。準備をして頂戴」
母上の言葉で、騎士達がぴしっと敬礼した。いつの間にかガスパルも一緒に交じっているが、まあ、問題はない。
「お姉様の決断にびっくりしたわ」
ベスがぼそっと呟き、抱っこしていたルカを差し出した。ルカを受け取り、ツノの脇を擽るように撫でる。ここが好きなようで、きゅー! と声を上げて喜んだ。
「カランデリア様はいつ動く予定だろう」
「明後日くらいかしらね。あちらの旦那様は補佐や準備が得意だから」
首を傾げた私に母上が目安を口にする。そんなに早いのか? 今夜中にガスパルを送り返さないと、キロス王国が出遅れてしまうぞ。




