181.ガスパル、勝ち抜き中
「いけ!」
「負けるな!!」
あちこちから声がかかる。ガスパルがまた一人倒し、拳を振り上げた。わあと歓声が上がるのは、左側の陣営だ。右側の騎士達は悔しそうに顔を歪めた。
いつの間にやら左右に分かれて応援合戦が始まった。左側はガスパルと同行したキロス王国の騎士達だ。休憩用に部屋を割り振ったはずが、いつの間にか鍛錬場に集合していた。上司が戦うとなれば、応援にも気合いが入る。
流派が違うので、剣術の勝負はなかなかに白熱した試合となった。手合わせと呼ぶより、交流試合が近い。木剣で戦うのだが、折られたり飛ばされたり、ウルティアの騎士が不利だった。
「ちっ、情けない」
父上の舌打ちに、母上がからからと明るく笑う。
「いい婿が決まりそうでよかったじゃないの」
機嫌が良さそうなので、母上にカランデリア様のことを聞いた。どちらにおられるのか、その質問に母上は首を傾げ……はっとした顔で私を見つめる。
「戻られたわよ? あなた達、いなかったのよね」
私達が戻る前に、領地へ引き揚げたとか。旦那様が迎えを寄越した? それはカランデリア様も戻るしかない。モンタネール領は、アルダ王国を横断しないと行けなかったような? 地形を頭に浮かべ、かろうじて触れそうな距離で繋がる国境沿いの土地を思い出した。
「なるほど。国境沿いに戻られたのか」
「アリス。何を言っているのよ。あの人がそんな面倒なことするわけないでしょう? まっすぐ直線よ」
手にした扇で直線を空中に描いた。王都はやや左側だから、アルダ王城のやや右側をまっすぐ? 突っ切ったのか!
「さすがはカランデリア様」
感嘆の声が漏れた。騎士がまた一人負け、両手を地面について「俺だって強いんだぞ」と叫んでいる。世間一般ではそうだろうが、ガスパルに負けたのも事実だ。
「次に会うのは、王城を落とすときね」
にっこりと笑う母上に、父上が慌てた様子で口を挟む。
「まさか、君が王城へ行くのか? 絶対にダメだ」
「だって、あなたを行かせる気はないのよ……アリスやベスでは、まだ統率できないわ」
父上はうぬぬと唸る。他国との交渉があるため、父上が動くことは避けたい。だが私やベスではまだ役者不足と母上は言い切った。ここは私が!
「ベスを当主代理、私が補佐に入れば問題ありません」
「……全然安心できないわ」
母上に盛大な溜め息をつかれてしまった。何が足りないんだ?




