180.人に言われなければ気づかない
「お姉様、私も行く」
どこに隠れていたのか、ベスが駆け寄った。私と腕を組んで歩き出す。じっと見つめたガスパルが肩を落とした。なんなのだ? 姉弟で仲良くするのは普通だぞ。
騎士が鍛錬する広場には、大勢の騎士がいた。見回すも、まだカランデリア様の姿がない。どこにいるのか、逆に怖いんだが……。突然飛び出されたら、悲鳴を上げて逃げるぞ!
「整列! これから手合わせをする。我こそは思う者は前に出よ!」
父上が声を張り上げると、騎士が整列した。なぜか視線が私に集中し、騎士達の表情が険しくなる。よくわからないが、死なせるなよ? これからキロス王国の騎士団長として、戦いに向かう男なのだ。骨折のように長引くケガも困る。
私を見上げたベスが「わかってないわね」と溜め息をついた。理由が気になって尋ねれば、あっさりと教えられる。
「お姉様は騎士達に人気があるの。要はモテるのよ」
「それはわかる。私は本家の娘だからな」
うんうんと頷いたら「はぁ?」と地を這う声が返ってきた。びくりと肩を揺らして、ベスの表情を窺う。こちらを見上げるベスの目が恐ろしい。
「お姉様の自己評価が低いのは、あの男のせいよ。いつまで引きずっているの! お姉様はウルティアの長子で、魅力的な女性です。復唱して!」
「私はウルティアの長女で……その……魅力的な女性、です」
言われた通りに繰り返す。ベスは満足げに頷き、これから毎日朝晩必ず唱えるように言い聞かせた。反論する理由もないので、承諾する。斜め前のガスパルも頷いているし、父上と母上も同様だった。よく見れば、騎士達も首を縦に振って同意する。
囚われていたつもりはないが、確かに「お前はがさつで女らしくない」「嫁にもらう俺の身にもなれ」「最悪だ」「隣に並ぶな、醜い」などと毎日聞いていた。男装を始めたのも、婚約後だった気がする。ドレスを着ても文句を言われるなら、好きな服を着よう、と。
騎士服や乗馬服は動きやすく、侍女にも好評だった。可愛いものが好きな私にしても、婚約者の文句より可愛い侍女の「素敵です」が聞きたい。だから男装が定着したのだ。
「……アルダ王国、滅びるべし」
拳を握ったガスパルが、憎しみを込めた呟きを放つ。同意する騎士達と意気投合し始めた。まあ、仲良くなっても手加減せずに戦うのがウルティアだ。これもいい勉強になるだろう。
「手合わせ、はじめ!」
父上の号令で、騎士が一人ずつ進み出る。ずらりと並んだ騎士の勝ち抜き戦か? 血が騒ぐ!




