122.騎士団長は知らされているか
婚約破棄騒動から始まり、隣国サンバドル王国に乗り換えようと考えた。ところが王太子が絡む王家のお家騒動に巻き込まれる。この辺は短く、簡略化して説明した。あまり他家の事情を事細かに話すのは、礼儀に悖る行いだ。
ざっくりだが、婚約者の振りをするベスの立ち位置を説明した。実際に結婚はしないと断言するのは忘れない。
モンタネール家のカランデリア様が逗留している話では、思わぬ反応があった。
「あのモンタネールの女王が……」
ほうと感心したような息を吐くので、関係を尋ねてみた。なんでも、憧れの君だったらしい。あの美しさと豪胆さは、そこらの女性では及ばない。わかると大きく頷いた。
「憧れ……。侯爵閣下はご結婚をなさいましたの?」
「家のために結婚したが、浮気されて逃げられた」
ベスの疑問に、さらりと返された。浮気され、逃げられた。全部受け身なのか。きっと政略結婚だったのだろう。騎士団長で侯爵家当主なら、相応の家柄のご令嬢が嫁いできたはずだ。場合によっては、王命で結婚が決まる可能性もある。
浮気した元侯爵夫人の実家は、さぞ大変だっただろう。尻ぬぐいという単語で片付く程度の被害ならいいが、一歩間違えば爵位の返上もあり得るぞ。
「それからどうなったのだ?」
私が可愛がる白い獣ルカが、サンバドル王国の聖獣であること。その地位を活かして、邪魔な貴族家をいくつか片付けたこと。モンタネール辺境伯家が、小国として再び独立を宣言したこと。そこまで話して、アルダ王国をカランデリア様が挑発した話が抜けていることに気づいた。
補足情報として付け足しておく。あとで「聞いていない」と言われるのも面倒だ。こういう情報は補足する必要はあるが、追加された情報は記憶から抜け落ちることも多かった。そこまではこちらの責任ではない。
「アルダ王国が……」
眉根を寄せて不愉快だと示すリエラ侯爵には悪いが、カランデリア様はまだ夫がいる。当然だが離婚予定もないだろう。その点も伝えた。
「当然だ。あの方に憧れたが、恋愛とは少し違う感情でな」
子供が勇者に憧れるような感情で、憧憬と呼ぶのが近い。リエラ侯爵はそう口にして、苦笑いした。
「モンタネール王国は、アルダ王国と戦う覚悟がある。ウルティアは義によって参戦を決めた。キロス王国には取引があって、お伺いしたのだが」
意味ありげに言葉を切る。リエラ侯爵はどこまで知っているのか。過去の遺恨を晴らすため、奪われた領地を取り返すため。キロス王国の王子は、アルダ王宮の喉元にある我が屋敷を購入した。その屋敷の分割払いを取り消してゼロにする代わり、手助けを要求する。
リエラ侯爵の反応を用心深く待った。




